ダンスを一緒に
広場では人々が先に踊りだしていた。慌てて音楽隊も演奏を始める。
踊り場に着くとグレアムが右手でひいていたフェシリアの手を離し、自分の左胸にあてた。
「フェシリア、僕と踊っていただけますか?」
フェシリアは胸が高揚するのを感じながら
「はい、是非」
と返事をした。
フェシリアは実際あまりダンスが上手では無い。
トリスタン男爵家ではエリザベスにはダンスの講師をつける程熱心だったが、フェシリアには社交界デビュー前に2〜3回ちょろっと母が教えたくらいだった。
たどたどしい足取りのフェシリアのダンスを上手にグレアムがフォローし、リードしている。
(グレアム様はダンスもお上手なんだわ。私の下手さが全然目立たない)
「フェシリア、ダンスとても素敵よ!」
「ティアもね」
ティアとルークも一緒に踊っている。
目に映る風景の端にはダンスを見ている人々の中にライラの姿も見えた。
。兄弟にお土産を買ったのだろう大きな紙袋を抱えてニコニコしてフェシリア達を見ている。
曲目が進んでいくと、踊りだす人々よりも鑑賞する人々の方が増えてきた。
「やー、やっぱりノーフォーク公爵家は踊りも素晴らしいね。見てて感動するよ」
「あの、ターン!すごいねー」
「綺麗だわ。見てるだけで満足!」
(今日はとっても素敵な1日だわ!勇者ヴィンセント万歳!!)
フェシリアが楽しみながら必死に踊っているとグレアムが微笑を浮かべて聞いてきた。
「フェシリア、今日はネックレス付けてきてくれたんだね」
「あ…はい。せっかくなので。碧のドレスにも似合うかと」
「良く似合っているよ」
城下町でグレアムに買ってもらった雪の結晶のネックレス。そんなに高価なものでは無いけれど、フェシリアは今日これを付けて踊りたかった。
更に踊る人は減り、民衆はノーフォーク公邸家の2組のダンスを鑑賞する事を楽しんでいた。
「綺麗だね!」
「しかし、ノーフォーク公爵家の兄妹もだが、あの娘も綺麗だね。」
「そうそう、トリスタン男爵家と言えばエリザベスが美女で有名だが、妹は違った美しさがあるね!」
「公爵様には妹の方がお似合いかもしれんな」
人々は口々に好きな事を言ったが、グレアムと踊りを楽しむフェシリアの耳にはもう届いていなかった。
音楽が一旦止まり、次の曲に変わる。
その時、それまで手を握っていたグレアムが突然フェシリアの手を離した。
呼吸を整えるとしゃがむように腰を下ろし、右膝を上げ、左膝を地面に着けた。
フェシリアが驚いて見ていると、フェシリアの片手を優しくとり
「フェシリア・トリスタン、一生大切にすると誓います。私、グレアム・ノーフォークと結婚してくれますか?」
とフェシリアを見上げながら言った。
フェシリアは突然の事に混乱しながらも胸が熱くなるのを感じた。自然に涙が溢れてきて、
「はい。私でよければ宜しくお願いします」
と答えるのがやっとだった。
それまで息を潜めて事態を見守っていた民衆から歓声が上がった。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「こりゃー!めでたいな!」
「キャー!すごいわ」
ティアやルークも喜んでいた。ライラは涙を拭っているのが見える。ライラの横にいるアリーも泣いている様だ。
グレアムは立ち上がりフェシリアを強く抱きしめた。
「有難う!フェシリア!大事にするよ!」
グレアムの目は碧くなり奥は炎のように赤味を帯びていたが、フェシリアはもう怖くなかった。
これはグレアムが必死に何かを成し遂げようとする時におこるものなのだ、ともう理解していた。
何だか安心してグレアムの胸に頭を埋めた。
民衆から声が上がった
「ノーフォーク公爵家にバンザイ!!」
「勇者ヴィンセントにバンザイ!!」
「今日という日にバンザーーイ!!」
勇者ヴィンセント像は「わしの力を継ぐ子孫が残っとる。まだしばらくはこの国は安泰だ」とホッとしている様に見えた。
ステージでは、でっぷりと太った男が「お祝いにもう一曲」と言って歌おうとし、皆に止められていた。




