狐と狸はよくしゃべる
髪をいつもきつめに引っ張り上げ、そのせいかキツネのように目が吊り上がり、細長い鼻に薄い唇。食べても食べても太らないガリガリの体が自慢のクローディア・ウィルソン。
クローディアとは対象的に髪をいつもたらし、小さな丸い目に団子っ鼻、厚い唇にふくよかな体を持つアンナ・マルクス。
対象的な二人だが二人共子爵家の令嬢でいつも一緒につるんでいる。
どちらかといえば、クローディアがボスの様でアンナはいつもクローディアの顔色を伺って行動している。
「聞こえてる!?お久しぶりねって言ってるのだけど!」
「えぇ、聞こえているわ。お久しぶりね、クローディア」
(やっかいな二人に捕まってしまったわ)
とフェシリアは考えていた。
二人とはアリツィア夫人の邸宅で何度か顔を合わせた事がある。初めから男爵家であるフェシリアの事を見下していたのは明らかだった。
さすがにエリザベスには勢いに負けて何も言わなかったが、フェシリアには刺繍にしてもお茶の飲み方にしても何かにつけて文句をつけてきた。
そのフェシリアが二人が狙っていたグレアムと婚約し、また婚約パーティーで逃げたのだから言いたい事は山のようにあるだろう。
「あの…。何なんですか?何か用があるんでしょうか?」
それまで黙っていたアリーがニ人に聞いた。
クローディアは「ハッ」と一笑いしてから大きな声で言った。
「平民風情がわたくしに話しかけないで頂戴!」
アリーは下を向いて黙った。手を強く握りしめ怒りを堪らえているようだった。さすがに頭に来たフェシリアは珍しくクローディアに言い返した。
「そんな言い方ないじゃないですか!アリーは私の大切な友人ですわ!」
フェシリアが言い返してくるとは思わなかったクローディアは一瞬止まったがすぐに攻撃を開始した。
「まぁまぁまぁ、平民が友達なんて。さすがフェシリアお似合いだわ!」
「そりゃそうよ、クローディア。フェシリアはもうすぐ平民になるのだから!」
アンナも便乗して攻撃し出す。虎の威を借る狐のように。
二人の攻撃はここであったが100年目!とばかりに止まる所を知らない。
「ノーフォーク公爵家の婚約パーティーから逃げ出して、グレアム様に恥をかかせて、無事でいられると思うの!?」
「大体、エリザベスならまだしも。あんたなんかが!」
「この、恥知らず!よく堂々と外を歩けたわね!」
「平民になったら私達に話しかけて来ないでよ!」
フェシリアは下を見て黙って聞いていた。
口を挟む暇も無かったし、ひどい言葉だが言ってる事はその通りだと自分でもわかっていた。只々、時が過ぎるのを静かに待っていた。
「何かありましたか?」
グレアムの声が聞こえてフェシリアが上を見上げると、グレアムが二人に向かってにこやかに話しかけていた。
クローディアとアンナは頬を染め、
「まぁ、グレアム様!お久しぶりですわ!ヨーク以来ですわね!」
「あらっいえっ。たまたまフェシリアに会ったので挨拶してましたの!」
と必死にグレアムに話しかけた。だがグレアムは
「あぁ、そうでしたか。フェシリア、そろそろダンスの時間なんだ。行こう!」
と言ってフェシリアを椅子から立たせると、下を向いたままのアリーに向かって話しかけた。
「アリー、まだ時間は大丈夫かい?実は私達は諸事情があって、婚約後のダンスをまだ踊ってないんだ。これから踊るからフェシリアの親友の君にも是非見て欲しいんだ!」
アリーはすぐにグレアムの方を見て、とても嬉しそうに瞳をキラキラさせて言った。
「本当に?私は平民だから……フェシリアの婚約もダンスも何にも見れないって諦めてた。見れるの?時間なんてどうでもいい。後でルドルフに怒られればいいだけだもの!」
その答えを聞くとグレアムは「よし!」と言ってフェシリアの手を引いて踊り場の方へ走り出した。
「あっ!グレアムさまぁ〜」
クローディア達は置いてけぼりになって悲鳴をあげた。
ステージでは民謡の男がやっと引きずり降ろされて、音楽隊が楽器を持って並びだした。
フェシリアはグレアムに手を引かれて走る。
走っているせいなのか、手を引かれているせいなのか心臓がドキドキと波打っている。
踊り場からルークとティアが
「二人共、始まっちゃうよ!早く早く〜」
とフェシリア達を呼んでいるのが見えた。




