民衆の目
ゼノーの街はヴィンセント勇者祭を向かえて賑わっていた。
店店の中ではヴィンセントをもじったメニューやセールが開かれ、それとは別に様々な出店が出店されている。
街の真ん中の広場にある勇者ヴィンセント像は丹念に磨かれ、花や電球で飾り付けられ、その脇にある急遽作られた特設ステージでは随分色気のある美女が歌を歌っていた。
大人も子供も、貴族も平民も、この日ばかりはゼノーの街に集まりエドニア大国を救った英雄ヴィンセントを讃え、皆で祭を楽しんでいた。
フェシリア御一行は馬車に揺られ街に降り立った。
「わぁ!賑わってるわ!フェシリア、ライラ、行こう!」
今日の為に買った白地に薄い青のドレスを着たティアは馬車を降りると、フェシリアとライラの真ん中に入り、二人と腕を組んで足早に歩き出した。
その後ろをグレアムとルークが慌てて付いてくる。
「ねぇ、あれ飲みたいな?フェシリア達は?」
ティアは赤や黄色の可愛い花で飾られたフレッシュジュースの店の前で立ち止まった。自分達と同じくらいだろうか、17〜18歳くらいの少女が耳に赤いゼラニウムの花を差して接客をしていた。
客の選んだ果物でフレッシュジュースを作るようで脇に色々な果物が山積みにされている。
「私も飲んでみたいな。ライラは?」
「私はさっきからあのブドウにしようと決めてます!」
ティアはもも、フェシリアはベリー、ライラはブドウを頼んだ。
「有難うございます!」
少女はにっこり笑うとあっという間に果物をフレッシュジュースにし、3人に渡した。
「もも、美味しい!」
「ベリーも美味しいわ。飲んで見る?」
「ズズッ…ぶどう、ほとんど飲んじゃいましたよ!」
グレアムとルークは3人より一歩下がった後にいた。
女3人の勢いに押され後をただ付いてきたが、楽しそうだった。
「全く、子供じゃないんだから」
「まぁ、楽しそうでいいよ。ヴィンセント勇者祭に兄さん達と来るなんて、久しぶりだな。」
「そうだな。子供の時以来か」
フェシリアはヴィンセント勇者祭を心から楽しんでいた。トリスタン男爵家にいた時、子供の頃連れてきて貰ったがあまり楽しい思い出では無い。
ヴィンセント勇者祭ってすごいのね。こうやって女の子と連れ立って歩いて買い物するのも始めて!とってもとっても楽しいわ!
楽しんでいたフェシリアはやがて気付いた。自分達がとても注目されている事に。人が沢山いてガヤガヤとしているが、時折会話が耳に入ってくる。
「あれ!ノーフォーク3兄妹よ!素敵!」
「キャー!薔薇の貴公子かっこいい!」
「私は星屑の王子よ!ルーク様ー!」
「おい、みろよ!妖精めっちゃかわいい!」
(やっぱり3人共大人気なのね。すごいわ!)
素直に関心していたフェシリアの耳にまた声が飛び込んできた。
「かっこいいわ〜声かけたい!」
「でも、2人女性がいるわよ。いいわね〜ご一緒出来て!」
「友達かもしれないじゃない!……あれっあの人って」
「………婚約パーティーの?」
フェシリアは先程までの楽しい気持ちが一気に吹き飛んでしまった。
グレアムとフェシリアの婚約パーティーには沢山の貴族が招かれた。
平民は顔まではわからないが、貴族ならフェシリアがグレアムの婚約パーティーから逃げだした娘だと気付いてしまう。
「どういうつもりなのかしら?よく一緒に入れるわね」
「あれはノーフォーク公邸家に恥をかかせた娘だろう?トリスタン男爵家だったか」
フェシリアは段々落ち込んできた。
私は何をしているんだろう?碧の綺麗なドレスを着て、少し高いヒールの銀色の靴を履き、髪を飾り立て、浮かれて。私がここにいる事でノーフォーク家の3人にまで恥をかかせている。
フェシリアが少し3人から離れようか、と考えているとグレアムが
「フェシリア、ここからはルーク達と別行動しないか?」
と言った。
「いや、この前アリーに失礼な事をしてしまったから謝りたいんだ。で、出来れば紹介して欲しいなって」
「えっ…えっと。」
突然の申し出にフェシリアは戸惑った。
(でも、私といると…)
「それがいいですよ!お嬢様!私は弟や妹に買う土産でも探してきます。たまには実家にも顔だそうかと思ってまして!」
「そうね、フェシリア。私はルークと周ってるわ!」
「分かんないけど、兄さんが悪かったんだろ。謝った方がいいよ。うん。後で合流だ!」
グレアムがフェシリアの右手を繋いで酒場の方へ歩き出した。
「じゃあ、行こう!」
「は、はい」
皆にも聞こえていたのね……気を使わせてしまったわ。心苦しいけれど、その気持ちが有り難いわ。
私が暗い顔をしてはだめね。皆の為にも、今日は楽しくしていよう。
グレアムに手を引かれて歩いていると、アリーの働いている宿屋に近づいてきた。
中からは男達の「勇者ヴィンセントにかんぱーい!!」という声が外まで響き渡っていた。




