ティアとハワード
「うん、大丈夫ですな!無理はしちゃいかんが、杖は無くてもいいでしょう!」
ドクターピートから、杖無しのお墨付きをいただいたフェシリアは嬉しいような拍子抜けしたような複雑な気持ちだった。
「有難うございます…」
「ん?杖が無いと不安かな?大丈夫大丈夫!元々は杖なんて無かったんだから、じきに慣れる」
「はい」
ライラが目を輝かせている。
「お嬢様!よかったですねぇ!」
「うん。そうね、有難う。」
ライラに答えながらフェシリアは考えていた。
(足が治った私はここに居ていいのかしら?ヴィンセント勇者祭まではまだ10日もあるわ。けど、今のグレアム様に聞く事は出来ないし…。)
「ヴィンセント勇者祭に行くにも杖がない方が楽だわ!最後のダンスも踊れるし!」
ティアが嬉しそうに言った。
ヴィンセント勇者祭はゼノーの街で盛大に行われる。店店が出店を出し、ステージでは歌やダンスが披露される。フィナーレは飾り付けられた勇者ヴィンセントの銅像の周りで皆で踊るのだ。想像するとちょっとダサいが、参加するととても楽しい。
「そうね、今から踊りの練習しようかしら。ふふっ」
(今は何も考えないでここにいよう…。ティア達の気持ちに甘えさせてもらおう)
◆◆◆◆◆
それから数日がたったが部屋にいるのだろう、フェシリアがグレアムを見かける事は無かった。
ルークとヘンリーが様子を見に行っていて、傷は良くなってきているとの事だった。
ティアとハワードが馬を見て楽しそうに話をしているのを、フェシリアは庭園の東屋から微笑ましく見ていた。
「やぁ、フェシリアは休憩かい?」
ルークだった。
「えぇ、足は大丈夫なんだけれど。まだ長く立っていると疲れてしまって……休憩中なの」
「そっか。徐々にだね。無理はしないのが一番だよ」
そういうと、ルークは東屋の椅子に腰掛けた。
「ハワードとティアさ、すごく仲がいいだろ?」
ルークがフェシリアを見た。
「そうね…。」
(でも、ティアが好きなのはあなただけど…)
「ハワードだけだったんだ。ティアを差別しなかったの」
「えっ?」
フェシリアは聞き返した。
「ティアさ、小さい頃に両親が亡くなってうちの養女になったんだ。本当の両親は母さんの遠縁だけど、あんまり身分の高い人達じゃなかったんだ。」
ルークはティア達の方を見て話を続けた。
「子供って時に残酷だろう?貴族の子供は特にそうさ。親の話を聞いてるからね。」
なんだか、フェシリアは先の話がわかった気がした。
「ティアが家に引き取られた後、親に連れられて家に遊びに来る子供は皆ティアを無視したり、いじめたりしたよ。兄さんも僕もかばったりしたけど、あんまり意味無かったな。でも、ハワードだけはティアに普通に接してくれたんだ。」
フェシリアもティア達の方を見た。二人はまだ笑いあっている。
両親を亡くし引き取られた家で心細い中、他の子供達からの心無い仕打ちにティアはどれだけ傷ついた事だろう……そして、普通にしてくれるハワードや守ってくれる兄がいる事がどれだけ心強かったか。
フェシリアがそんな事を考えているとルークがニッと笑って言った。
「家もさ、一見普通に幸せそうだけど色々あるんだ。だから、だからじゃないけど…フェシリア、兄さんの事、嫌わないでやってくれないか?いつもはあんなじゃないんだ。すごく、家族思いで優しいし…お願いだ。」
顔は笑っているが懇願している様だった。
「ルーク、私はグレアム様を嫌いになった事なんて一度もないわよ?」
フェシリアが答えると、ルークは「そっか」と言って本当に嬉しそうに笑った。
ハワードとティアがルークもいる事に気付いてフェシリア達のいる東屋に戻ろうとすると、ノーフォーク公爵邸の門が開いた。
入ってきたのは、リック皇太子を乗せた、王家の紋章付きの馬車だった。




