2人の距離
(絶体絶命だわ…)
フェシリアは考えていた。何とかこの危機を脱する方法を!
「ふふっ瞳の奥が揺れているね?何か恐れるくらい怖い事でもあるのかな?」
グレアムはフェシリアの右手を掴み、微笑みながら聞いてきた。目の奥は全く笑っていなかったが。
「そんなのある訳無いじゃないですが。あの、私そろそろ本当にティアの所へ行かないと…」
(マズイマズイマズイ。早く逃げないと)
手を引いてみたが、グレアムが強く握っていて全然ピクリともしない。
「僕に隠し事は良くないな。フェシリア、言ってごらん?何かあるんだろう?」
駄目だ。全然手がほどけない。これは、話を聞くまで手を離しそうにない。
「あの、あれですわ。ティアの個人的な事もありますから、言えない部分もあるんです」
「僕はティアの兄だけど。それでも?」
「それでも……です!ティアの許可なく言う訳にはいきません。」
(ど、どうかしら?お願い諦めて欲しい!)
「まぁ、一理あるね。でも言える範囲もあるだろう?それだけでも、聞きたいな。」
「まぁ、少しなら…」
(ちょっと軽い部分だけ話して逃げよう)
「じゃあ、聞かせてもらおうかな?」
グレアムはそういうと、フェシリアを抱きかかえて行きそのまま椅子に座った。
「な、何するんですか?」
「ん?君は足がまだ完璧じゃないだろう?立ちっぱなしで話すのは足に良くないと思ってね」
(何コレ何コレ!?何で私はグレアム様の上に乗ってるの!?顔とかすごい近いじゃない!!!)
フェシリアは真っ赤になった顔を両手で覆いながら話し続けることにした。
「でも、でもですね?グレアム様の上に乗る必要は無いと思うんですよ?他にも椅子はありますし。」
「まぁ、あるね?」
「ですよね!?だから、私はその、他の椅子に座りたいんですよ。」
「うーーーん。その意見は却下かな。」
(きゃっ……却下!?)
「君はすぐ逃げてしまうからね。ちゃんと捕まえておかないと………ね?」
(うーーん。気を失いそう。ど、どうしたら…)
グレアムは顔を覆っているフェシリアの手を両手で開けて微笑を浮かべ
「じゃあ、話そうかフェシリア。」
と言った。
◆◆◆◆◆
フェシリアはまだグレアムの膝の上に乗っていた。
両手も取られてしまったので至近距離で見合っている。フェシリアの顔は真っ赤っ赤だ。
(もう諦めるしか無いわ。早く言って立ち去ろう)
「その……ティアは傷ついているんです。ちょっとそのー、好きな人の事で。」
「あぁ、ルークの事?そうだと思ったよ」
グレアムはサラッと言った。
(えーーーーーー!?)
「しっ、知ってたんですか!?」
「あぁ、僕らの婚約パーティーの時かな。ティアが泣いてたから聞いたら、言った。」
「ええっ」
「でも、じっくり聞ける状況じゃ無かったから。わかった、みたいな事は言ったと思う。折を見て、ルークの気持ちとか探ろうとは思ってた。」
(あれってそういう意味の返事だったの!?)
「まぁ、結局はお互いの気持ちだしね」
「で、フェシリアは何があったのかな?」
グレアムはフェシリアを真っ直ぐ見て聞いた。
「あのーちょっと。勘違いを……してたんです。私、あの…ごめんなさいとしか…」
優しい口調で、けれど有無も言わさぬようにグレアムは聞いてくる。
「それでは良くわからないな?フェシリア」
(もうちゃんと謝るしかないわ!腹を決めたわ!)
「ごめんなさい!ティアの好きな人は貴方だと思ってました!しかも両思いだと勘違いもしてました!」
「………えっ?」
長い間の後にグレアムが一言発した。そして、瞳の奥の赤い炎は揺らめき始めていた。
「……もしかして、それで婚約パーティーから逃げた?」
フェシリアにとって一番聞かれなくない質問だった。けれど、誠実でありたいと思いフェシリアはグレアムを見て答えた。
「はい。申し訳ありませんでした。」
グレアムは無言でフェシリアを立たせると言った。
「それは許すことは出来無いよ、フェシリア。」




