執事ヘンリーの絶望
あれから1週間がたった。フェシリアはまだ一人で立ち上がる事は難しいがベッドの上に身を起こす事はできるまでに回復した。
ベッドの右側の窓から暖かい春の日差しが差し込んでいるのかわかる。
「お嬢様。今日はとてもいいお天気ですよ。」
「本当?見てみようかしら…イテテ」
ライラに言われて窓の外を覗いてみる。新緑の木々で溢れ、小鳥達がさえずっている。
(春のノーフォーク公邸といったら何と綺麗な事でしょう…)
フェシリアはとても穏やかな気持ちになった。
ただ一つ気がかりな事を除いては。あの婚約者逃亡事件以来、ノーフォーク公とは一度も顔を合わせていない。最初の2〜3日はいつくるかとドキドキした。しかし、一週間も経つと忘れられているのかもしれない…?などと、ありえない想像までしてしまう。
「何か必要なものはございませんか」
丁度、執事のヘンリーが、御用聞きに来たので聞いてみた。謝罪をしたいがノーフォーク公に時間をつくって貰えるだろうか?と。
すると、いつも冷静沈着なヘンリーがギョっとした顔で
「いやーあのーフェシリアさま。ノーフォーク公は多忙というか。何というか。まだ、ちょっと。そのー。ノーフォーク公の気が落ち着かれてからの方がいいかと。」
明らかに動揺し、しどろもどろで答えたのだ。
(私、ノーフォーク公に会ったら殺されちゃうのかしら)
忘れられているのではなく、会いたくないのだ。厄介者だが怪我をしている。仕方なく館に置いているのだろう。
婚約も破棄されるだろう。いや、破棄された方がいいのだ。
「そうね、そうよね、ヘンリー。私だけの感情を押し付けてはいけないわ。有難う。」
「いえ、フェシリア様。そのような事では決して無いのです。ただ、そのー」
(何だか、ヘンリーにも申し訳なくなってきた。めっちゃ目が泳いでるし。)
「ねぇ、ライラ。私、大分良くなってきたわ。ドクターは二月と言ったけれど、この調子なら一月もせず帰れそうよ」
フェシリアは満面の笑みをこぼして、ライラの方を向いた。
「へぇぇぇぇ??お嬢様、へぇぇぇ?何て?」
ライラは素っ頓狂な声をあげた。
「だって、こちらにあまり迷惑はかけられないし。勿論責任はとるつもりよ。実家に戻ったら修道院でも勘当でも何でも受け入れるつもりだわ」
「いやー。でも、お嬢様ぁ〜焦る事ありませんよ。そうだ!今日は久しぶりに髪を洗いましょうよ!私お湯を貰って来ますから!ね!ね!」
ライラに押し切られ、
「えっうん。じゃあお願いしようかな。有難う。」
と答えたフェシリアは先程よりもっと挙動不審になり真っ青な顔で部屋を出ていく敏腕執事ヘンリーに気づかなかった。




