主人公は確信を得る
「フェシリア、おはよう。わぁ、昨日よりも疲れた顔だよ!」
ルークが呑気に言った。フェシリアは昨日あらぬ想像が頭に浮かび一睡も出来なかった。目の下なんてクマで真っ黒だ。食堂に来てはみたが食べ物が喉を通るかどうか。そんなフェシリアを前にしてルークは話を続ける。
「昨日はごめん。結局、遅くなってしまって向こうの家に泊まったんだ。足は大丈夫だった?」
「はぁ……何とか。大丈夫です」
(足は大丈夫よ。おかしくなりそうなのは頭よ!)
ルークは首を傾げた。
「まだ、フェシリアは昨日の疲れが残っているのかな?」
「ははははは」
フェシリアからは乾いた笑いしか出なかった。
「おはよう。なんだルーク帰ってきたのか。」
続いてグレアムが入ってきた。フェシリアの体はピキーンと固まった。
「おはよう兄さん、今日朝早くに帰って来たよ。お腹がペコペコさ」
そこでヘンリーからティアが朝は食べないと言っていると伝えられた。
「なんだ?体調でも悪いのか?見に行ってくるよ」
椅子からルークが立ち上がり、ティアの部屋に行こうとしている。
フェシリアは止めようか迷ったが、グレアムに目で制された。
ルークがティアの部屋に向かって数分後、
ガッシャーン!ガタガタ!ドン!
とすごい音が2階から聞こえてきた。
グレアムとフェシリア、ヘンリーは慌てて音の鳴った部屋へと急いだ。
2階に上がるとティアの部屋の前にルークがいた。
フェシリア達が見ると驚きと困惑の表情を浮かべている。
「ティアが変なんだ。入ろうとしたら押し出されて…」
「いやっ 入って来ないで!」
ティアが扉の向こうから大きな声で叫んだ。
「どうしたんだ?昨日の事なら悪かったよ。ちゃんと話をしよう?」
「入らないで……うーっ」
ティアは泣いているようだった。様子を見ていたグレアムが扉の前に来た。
「ルーク、ヘンリー、お前達はひとまず下に戻れ」
「えっ…でも。…分かったよ、兄さん」
ルークは階段を力無く降りて行った。ヘンリーも後に続いた。
グレアムは続けて扉越しにティアに話しかけた。
「ティア、いつまで泣いてるつもりなんだ?ルークは今いないよ。中に入ってもいいか?」
「………だめ」
「もう少し休むか?少しでも何か食べなさい、皆が心配する」
「………なら、いいわ」
「えっ?」
グレアムは聞き返した。フェシリアは実は僅かにに聞こえていた。
「………フェシリアなら中に入ってもいいわ。」
今度ははっきり聞こえた。
(ぎょぉぉぉぉ!!やっぱりそう言ったわよね?空耳だと願ったわ。どうしよう?ティアの事はもちろん心配よ?でも、私の頭がまだまとまってないのよ!)
「わかった。今、フェシリアが入るから、いいな?」
(ちょっと!勝手に決めないでよ!!)
グレアムはフェシリアを見て大きく頷いた。
(うん。さぁどうぞ、じゃ無いのよー!)
ティアの部屋の扉が小さく開けられた。
「あの……その……じゃあ失礼するわ。中に入るわね」
フェシリアに残された選択肢は中に入る事しか無かった。
ティアの部屋に入ると落ちて割れた水差しがあった。
ルークを追い出す時に倒れたのだろう。
ベッドに腰掛けたティアはいつもの可愛らしさは無くひどく疲れて見えた。夜中泣いたのだろう、目も腫れている。
「フェシリア……ごめんね」
ティアはまた謝った。フェシリアは悲しくなり、ティアを抱きしめた。
「いいのよ……辛かったのよね」
「フェシリア……うっ…ヒック」
ひとしきり泣いた後、ティアはポツリポツリと話始めた。
「辛かったの…好きな人がいて…」
「うん」
「でも、難しいの…。」
「うん」
「元々、無理なのきっと。わかってたつもりだったけど…。」
「うん」
フェシリアはティアに話をさせてあげた。少しでも、気が安らぐように。
「昨日、向うは何とも思ってないんだなぁ…って」
「ゔ!…うん。」
(…………確信に近づいてきてない?これ)
「悲しかった。」
「そうよね。思いが伝わらないのは悲しいものだわ」
「有難う、フェシリア」
(ふー。ひとまず切り抜けられたようだわ)
「ルークなの。フェシリア、私ルークがスキなのよ。ずっと、昔から。おかしいでしょう兄妹なのに」
(……………え?今、言っちゃたよね、ルークって。あー!!聞・い・て・し・ま・っ・た!!)
「人を好きになる気持ちにおかしい事なんて何もないわ。ティア、胸をはっていいのよ。」
「有難う、フェシリア…」
ティアはまた泣いてしまった。
「ティア少し横になって休むといいわ」
フェシリアはティアの頭を撫でて言った。
この後階下に行ってどんな顔でグレアムに会えばいいのか?
フェシリアの体からは滝のような冷や汗が出ていた。




