昼下がりのお茶会で
リックの訪問から数日が経ちヴィンセント勇者祭まで残すところ20日となった。
フェシリアはノーフォーク公邸で変わらず穏やかな日々を過ごしていた。
グレアムは仕事以外は大体舘にいて、フェシリア達と過ごした。ルークやティアも特にどこに出かけるという事も無くフェシリアと話したり、馬に乗ったり、本を読んだり館の中で各々好きに過ごしていた。
そんなある昼下がりの休日、メイドが運んできた紅茶とジンジャーの入ったクッキーを皆で囲んでいた時だった。
ルークが一口紅茶を飲むと、
「明日、ちょっと研究所に行ってくるよ。ずっと休みは貰ってるけど、全く顔を出さない訳にもいかないし……そうだ!フェシリアとティアも一緒に行かないか?ちょっと時間はかかるけど、クルルの街で買い物をしたらいいよ。」
と言った。
「え!クルルの街に?そういえば最近行ってないわ。フェシリアと一緒にお買い物したいわ。ねぇ、フェシリア!一緒に行きましょう!?」
ティアはもう楽しみで仕方が無いようだ。
クルルの街はノーフォーク公邸から城に向かい、そのまた少し先にある。
ルークが働く植物研究所はクルルの端に位置しているのだが、そのせいもあってかクルルの街には色々な木や花が溢れている。
レンガ造りの街並の中に色とりどりの植物や花が咲き乱れ、若い娘達の好きそうな雑貨屋やブティック、紅茶の店などが立ち並んでいて、城下町とはまた違う魅力のある街である。
「クルルの街…一度は行ってみたい。けれど……」
(グレアム様は許してくれるかしら)
以前城下町に行った時はエリザベスに半ば押し切られて連れて行かれた。エリザベスの目的もグレアムに会う事だったからすぐに合流した。
けれど今回はグレアムは仕事で来れない。最近は前よりも話すようになったとはいえ、ゼノーで逃げた前科もある。
フェシリアは考える程クルルの街に行くのは不可能の様に思えた。
「それはいいな。行ってくればいい。」
下を向いて考え事をしていたグレアムが前に向き直して言った。
「クルルは沢山の店がある。フェシリアもティアもヴィンセント勇者祭に遊びに行く時の為にドレスや靴を買って来ればいい。」
「本当!?有難うお兄様!フェシリア楽しみね。」
「えっ……えぇ。楽しみだわ。クルルの街には初めて行くし。」
「初めてなのか。じゃあ、仕事が終わったら街を案内するよ!楽しいところだよ!」
ルークもティアも楽しそうに話している。
フェシリアはクルルの街に行ける事は意外だったが純粋に嬉しかった。ただ、グレアムの考えている事は分からなかった。
(私の事を信用してくれたのかしら。あの時グレアムはヴィンセント勇者祭に来ていくドレスを。と言ったわ。私を連れて行くつもりなのかしら……そこで断罪を?その後に……?ううん。もう考えるのはやめよう。)
フェシリアは覚悟を決めた。
私はグレアムの事が好きだ。それはもう変わらない事実だ。
始めは一目惚れだったが、この館でグレアムの人柄に触れる事が出来た。震えるくらい怖い時もあるけれど、ふとした時に見せる優しさに心は暖かくなり、急に訪れる強引さには心を奪われる。
ヴィンセント勇者祭が終わるまではグレアムのそばにいる事が出来る。断罪の時までは思いっきり楽しもう。その思い出を胸に生きて行く為に。
「グレアム様、有難う。私、クルルに行ってきます」
フェシリアが決意を新たに言うと
「………様ね。ティアと沢山ドレスを選んでおいで。クルルは女の子には楽しい街だよ」
とひとつ溜息をついてから微笑んだ。




