黒鹿毛の馬イルフォーバルはうなだれる
「さぁ、ノーフォーク公邸に帰ろう」
「そうだな。」
美しい渓谷の景色に別れを告げて、2人は馬を走らせた。
「ところで、フェシリアとは最近どうだ?」
リックは馬が少し速くなったのを感じた。
「あぁ、まぁ。前よりはいいと思う。」
「なんだ!進展ありか?」
ティティスがイルにスピードを合せた。
「前は怖がっているのが分かったから、少し様子を見ていた。だが、もうヴィンセント勇者祭まで1か月を切ったからな、遠慮するのは止めた。」
「そうか。上手くいきそうか?」
イルはまたスピードを上げた。ティティスもすぐ追い付く。
「まぁ、上手くいっても、いかなくても。元々逃がしてあげる気は無いから。」
グレアムが微笑を浮かべて行った。
(これだよー!ヴィンセントの血だよ!怖えよ!)
リックは身震いした。にしても頬に当たる風が強い。
「まぁ、大事にしてやりなよ。いい娘そうだし。ところでさ、何でこんなに急いで帰るんだ?」
2人は追手から逃げているかのごとく猛スピードで街道を突っ走っていた。
「いや、リックがスピードをあげるから、こちらは合わせてたんだが。」
「いや、グレアムから借りたこの馬がすごいんだよ。スピード狂なのかな?」
イルフォーバルは下で聞いていてガックリした。
スピード狂ってあんた。。。
俺は精一杯頑張ってたんだぜっ。。負けまいと!
イルはティティスの方をチラリと見た。
フンッ と笑われた気がして、イルはスピードを弱めた。
「おっ丁度良くなった!いいぞ!えーっとイル!」
おぉ、そうか、ありがとよ。
けどな、俺は必ずティティスに勝って、そして告白すんだ。ティティスより遅いんじゃ言えねーからな。まだ、俺は諦めてないからなー!!
「ティティスも足取りを揃えたようだ。もうすぐ、ノーフォーク邸だな」
グレアムが言った。2頭の馬は足どりを揃えてノーフォーク公邸に向かった。
ティティスはイルって何でもムキになってかわいいのよね!と思っていた。
こうして、グレアムとリックの遠乗りは馬達の恋愛事情もあったが、雨に打たれることも無く無事終わった。
◆◆◆◆◆
グレアム達が無事ノーフォーク公邸に帰ってきた。
雨が振らなくて良かったとフェシリアは思っていた。
リックは戻るとすぐ馬車が迎えに来て帰ってしまった。
「思いがけず時間がかかってしまったから、もう帰るよ。皆、有難う。今日は久々に楽しかったよ!」
最後まで笑顔で帰って行った。
リックを見送るとグレアムは
「ディナーの前に着替えてくるよ」
と言って2階へ上がっていった。
グレアムは自分の部屋に戻り、汚れた服を脱いだ。洗いたての着替えを出して、袖を通しながら今日の事を思い出していた。
リックは明るいが皇太子ともなると、責任も重く、色々な重責がある。友人と過ごす時間は本当の自分を出せる僅かな時間なのだろう。
自分もそうだ。家族や他の人とは違う顔をリックには出せる。
……フェシリアはどうだろう?
家族は論外だ。ライラの事は可愛がっているがライラはまだ幼い。相談なんてしないだろう。ティアにもしない。
……あのゼノーの娘か。アリーと言ったな、会わせてやりたいが、もう逃がす訳には行かない。
何か考えてやらないとだな。
グレアムは着替え終わると食堂へと降りて行った。




