ウィリアム夫妻の受難再び
「ヨークに今入った。もう少しでうちの別宅だ」
街路樹の並ぶ道を馬で並走しながら、グレアムはリックに言った。
なるほど、ヨークに馬で来たのは始めてだが、中々いいところだ。都会のような煩さはないし、かといってそこまで田舎でも無い。空気はおいしいし、のんびり暮らすには最適の場所に思える。
リックは親友との馬乗りを純粋に楽しんでいた。
「ウィリアム殿はなかなかいい場所を見つけられたようだな。」
リックは話続けた。
「そうだ。もし、ウィリアム夫妻がご在宅なら一言挨拶をしたいな。」
右側に小さな小川が見えてきた。カランカランと風車も回っている。
「そうだな。多分、二人共いるんじゃないかな?寄ってみるか。あぁ、そのカーブを左に曲がると別宅が見えてくるよ。」
グレアムが言う通り道は左にカーブし、右側にベージュの建物が見えてきた。
ティティスは徐々にスピードを落とし始めた。リックも手綱を少し引いてみたが、少ししかスピードは落ちない。
(……?あぁ、馬番が扱いにくい馬だと話をしてたな。だが、このままだと通過しそうだ)
リックは次は強く手綱を引いた。
キキーッ! と音が聞こえそうな程に急にイルは止まった。
(危なかった。随分急停止する馬だな。)
ドキドキするリックの横にグレアムを乗せたティティスが優雅に止まった。
ノーフォーク公邸より小さな門をくぐると、女性の使用人が庭の手入れをしている。ウィリアム夫妻は在宅だろうかと2人は訪ねた。
「これは、グレアム様とリック皇太子殿下ではありませんか!お二人はご在宅です。呼んで参りますので、さぁさぁ、お入りください。冷たいものでもご用意致します。」
何とも感じの良い対応だなと思いながら通された部屋でよく冷えたハーブティーを飲んで待っていると、疲れきった顔のウィリアム夫妻が作り笑いを浮かべて入ってきた。
「2人共良くきてくれた。久しぶりだな。ところで、今日はどうしたんだ…?何か新たな問題が…?」
ウィリアムが2人を見比べながら聞いてきた。
「いえ、久々にリックと馬で遠乗りをしていまして、この先の渓谷に行くついでに寄ったんです」
グレアムが困惑しながら答えるとウィリアム夫妻の顔は パーーッ!と明るくなった。
「そう!そうか!遠乗りに!いやー!そうか!あの渓谷から見る景色は綺麗だからいいぞ。うん。」
「まぁまぁまぁ!そうだったのね!リックも久しぶり、2人に会えて嬉しいわ。馬はいいわよね。」
先程迄とは打って変わり明るくなった2人にグレアムは聞かずにはいられなかった。
「何かあったんですか?」
ウィリアム夫妻は一瞬固まったが
「何もある訳ないじゃないか!なぁ、アリツィア」
「そっそうよ。ねぇ?いつも通りじゃないかしら」
とアタフタしている。
「本当に?何か変ですよ。話すなら早い内が良いと思いますよ。鉄は早いうちに打てと言いますから」
グレアムの追及の手は止まらない。
しかし、アリツィア夫人の打った次の一手で流れは完全に変わった。
「ところで最近、フェシリアの様子はどうなのかしら?」
それまで、冷静に淡々と両親を詰めていたグレアムの表情は一気に崩れ去った。
「フェシリアですか……?そうですね、最近は館にも大分慣れてきました。まだ、杖をついてはいますが。庭園に出てお茶をしたり、そうそうこの前は私を迎えに城下町まで来てくれて。それに…」
一瞬、ウィリアム夫妻はポカンとしたが、すぐに気を取り戻した。
「じゃあじゃあ、早く行った方がいいんじゃない?ここから渓谷まではまだ距離があるし、帰りが遅くなったらフェシリアが心配するわ」
「フェシリアが……心配を?」
「そうだぞ、グレアム。フェシリアを心配させちゃあ、いかん。」
「そうよそうよ」
「……そうですね、もう行きます。」
グレアムはサッと立ち上がった。
「リック、行くぞ!」
「えっ?あ、ああ。ではウィリアム殿、アリツィア夫人また。」
リックも立ちあがった。
「有難うリック。また近くに来たらいつでも寄ってくれ」
ウィリアム夫妻は入ってきた時と違い今度は本物の笑顔で見送った。




