雄馬 VS 雌馬
「リック皇太子殿下、お見苦しいところをお見せして大変申し訳ございません。父と姉に変わってお詫びいたします」
ノーフォーク公邸の応接室でフェシリアは深々と頭を下げていた。
(あぁ…あんな醜態を皇太子殿下に見られるなんて…)
フェシリアはシンプルに落ち込んでいた。
「あぁ、全然いいよ!ノーフォーク公邸にきた時は皇太子としてではなく、グレアムの昔からの友人のリックとして来てるからさ、気にしなくていいよ!それに…ここは親戚の家だしね!」
「それにしても……お姉さんの根性?あれは僕も見習わなきゃいけないな。なんてね!」
黒髪の皇太子は惚けたように明るく言うとフェシリアに向かってウィンクした。
「有難うございます…」
笑い話にしてくれたリックの心使いはとても有難い。だがやはりフェシリアは先程の事件がとても恥ずかしく、小さくなっていた。
フフフっとリックが優雅に笑っているとメイド達が紅茶を運んできた。
「しかし、ルークもティアも久しぶりだね!グレアムは仕事でよく会うけど。ルークは一人暮らしだし。ティアは普段はミセス・ルーナのところにいるんだっけ?」
「はい、普段はミセス・ルーナのところにいて、行儀見習いのような事をしています。今回はヴィンセント勇者祭があるのでお休みをいただいて来ましたの」
いつも大人しいティアがはきはき答えた。リックはティアにとって、もう一人の兄のような存在なのだろう。
(行儀見習いとティアは言ったが、まぁ、貴族によくある花嫁修業だろうな。ミセス・ルーナはその点で大変評判が良くて有名だし、いい選択だ。)
ふんふん、とリックは察していた。
「そうか。まぁ、皆元気そうで良かったよ。今日は時間があいたし、グレアムと馬で遠乗りでもしようかと思ってきたんだ。」
リックは運ばれてきた紅茶のカップを右手で持ち上げ言った。
「じゃあ、行こうか、リック」
と間髪入れずにグレアムが言った。
リックはカップを持ち上げた手を途中で止めた。
「えっ?早いな。久しぶりだし、もうちょっと皆と話をしたいんだけど。これからルークとも話をしたいし、まだ、紅茶も……」
「いや……行こう。夕方雨が降るかもしれない。早く出た方が良さそうだ」
リックが遮るように言った。見るともうソファーから立ちあがっている。
リックは横目で窓から外を見てみた。雲ひとつない、これ以上無いくらいの晴天である。
(うーーーん?………!!)
そして閃いた。
「あぁ…そうか。じゃあ、そうするか!皆さん、我々は馬で出掛けます。続きはまた後で話しましょう」
リックは言いながら、(さっきのウィンクがまずかったんだろうなぁ)と反省していた。
残された人々は天気いいけど夕方から雨なのかぁと外を見ていた。
2人が館から出るともう馬番が馬を準備してくれていた。
グレアムには愛馬ティティスを、リックにはノーフォーク公爵家で2番目に早い黒鹿毛のイルフォーバルを。
「旦那様、イルフォーバルは足が早いので用意しました。ティティスにまともについていけるのイルだけなもんで。ただ…ちょっと荒い時があるんで、お気を付けてください。」
申し訳なそうに言う。
「ああ、わかった。リック、それでいいか?」
「構わないよ。馬に乗ることには慣れてるし、戦場に行く訳でも無いしな。」
かくして2人は遠乗りに出掛けてた。
「今日はどの辺りに行くかな」
ティティスに乗り風を受けながらグレアムが聞いた
「俺は、ヨークを見てみたいな」
リックが答えた。今日は天気もいいし、頬にあたる風が気持ち良い。
「じゃあ、ヨークを経由してその先にある渓谷に行くか」
グレアムが少しスピードを上げた。
リックもそれに合わせてグンッとスピードを上げた。
名馬イルフォーバルは意気込んでいた。
今日はグレアムがリックと遠乗りをすると、馬番達が言っていた。
「リック王太子殿下の馬はどうする?」
「イルはどうだ?」
「イルはなぁ…足も速いし、いいんだが。あれがなぁ…」
「だよなぁ……」
「メルラッドか、ローグリオンにしとくか」
「でも、ティティスについていけるか?」
「うーーん。まいったなぁ」
冗談じゃねぇ、雌馬メルラッドや老いぼれローグリオンに行かせてたまるか。あの、ツンと澄ましたティティスの長ーーく伸びた鼻の骨を折ってやるのはこのイル様だぜ!
イルフォーバルは馬番の横に移動し、甘えたように顔を寄せた。
「おお、イルか。まぁ、最近イルも大人しいしな」
「そうだな。リック皇太子殿下は馬にも乗りなれているから、大丈夫か」
「じゃあ、イルにするか」
よっしゃー!!チャンス到来!今日こそティティスを打ち負かして、グレアム様の一番の愛馬イルフォーバル様になってやるぜっっ!!
イルフォーバルはティティスに対してめちゃくちゃライバル心のある馬だった。




