男 VS 女
案の状、エリザベスを帰らせる作業は難航した。
まず、トリスタン男爵は朝早めにノーフォーク公邸に来た。自分だけでは無理!と判断したのか屈強な男の使用人を2人携えてきた。
グレアムに
「大変ご迷惑をお掛けして申し訳無かった。今日連れて帰ります」
と謝り
「帰るぞ!エリザベス!」
と言った。
「お父様、私帰りませんわ!まだまだ、グレアム様とお話したい事がたくさんありますの!」
エリザベスは返した。
ここからは【絶対に連れて帰る】と決めた男と【絶対に帰らない】と決めた女の戦いだった。
「いいから、帰るぞ!」
「嫌です!」
「母さんだって、お前が帰るのを待ってるんだ!」
「知らないわよ!そんなの!」
「知らないってなんだ!お前が押したから腰を痛めてるんだぞ!」
「知らない!父様だけ帰ればいいじゃない!」
「何馬鹿な事言ってるんだ!早く帰るぞ!」
戦いは永遠に続きそうだったが、この後のエリザベスの言葉にトリスタン男爵は真青になった。
「私は!フェシリアが家を出された後!グレアム様と結婚するの!未来のノーフォーク公爵夫人なのよ!だから、帰らない!!」
玄関ホールには余りの騒ぎに家人も使用人も皆集まってきていた。一瞬で静寂が走った。
「お前は…!?何を馬鹿な事をいっとるか!帰るぞ!」
トリスタン男爵の顔は怒りでみるみる赤くなり、エリザベスの片腕を掴んだ。玄関を出ながら
「ノーフォーク公爵、娘が失礼を。重ね重ね申し訳無い。今日はこれで」
と謝った。
しかし、玄関からは出られなかった。
エリザベスがもう片方の手で玄関ドアの扉に掴まっていたのだ。
「のぉーー!お前という娘は!」
トリスタン男爵は、何とか扉からエリザベスを離そうと引っ張ったがそこは女も根性、全然離さない。
「お前達!エリザベスの手を何とかしろ!!」
命じられた2人の屈強な使用人は走ってきて、1本、また1本、扉からエリザベスの指を離しにかかった。
「やめて!あんたたち!覚えてなさいよ!このっうすのろ馬鹿!やめろー!」
エリザベスは悪態をついていたが、指を全て離され3人に担がれ、馬車に乗せられ帰って行った。馬車は大分揺れていたので中でも暴れているのだろう……
玄関ホールに集まった人々は茫然として言葉も出ず、去りゆく馬車をただ見守る事しか出来なかった。
その時、門からノーフォーク公邸の間に一輛の馬車が止まっている事に皆が気づいた。
「そうだ、今日はリックがくる日だった」
グレアムが思い出したように言った。
馬車から降りたリック皇太子殿下は玄関に入り
「すごいものを見させて貰ったよ。見ちゃ悪いと思ったんだけど……馬車から降りるタイミングが中々無くてさ」
と困ったように言った。




