薔薇の宝石箱
「ほぅだ、おじょうひゃま…」
ライラがフェシリアがお土産にあげた飴を頬張りながら話しかけてくる。
「きょほ…ついていけなかっ…はぁ…」
一体何個口にいれたのだろう?フェシリアは疑問に思いながらも
「ライラ、食べ終わってからで大丈夫よ」
と言った。
「ほい」
ライラは頷くと一生懸命飴をなめだした、最後はガリガリ噛み砕く音が聞こえた。
「フーッ!美味しい!あのですね。今日お嬢様について行けなかったのはトリスタン家に行ってたからなんです」
一息ついて、ライラが言った。
「えっ…?トリスタンの館に?」
フェシリアは不思議に思った。
ライラは何故急にトリスタン家に行ったのだろう?恐らく、フェシリアはもうトリスタン家の敷居をまたぐ事は出来ないだろう。もしかして、ライラはトリスタン家に戻ってしまうのだろうか?それとも何かあったのだろうか?
「グレアム様がユリウス旦那様に話を通して下さって、お嬢様の荷物を取りに行ってきたんですよ。」
「えっ?」
フェシリアは驚いた。
「奥様が腰痛めてるじゃないですかぁ、それで今日湯治に連れて行くって急に連絡がきて、チャンス!って事で行ってきたんです」
「全部は持ってこれなかったけど、大体はいけました!今運びますね!」
ライラが扉からトリスタン家にあったフェシリアの荷物を運んできた。
数枚のエリザベスのお下がりのドレスと少しの荷物。
いくら貧乏男爵家といえ、こんなに荷物の少ない令嬢も中々いないだろう。
フェシリアは荷物の中に刺繍の束を見つけて嬉しくなった。エリザベスはフェシリアの持っている良さそうなものは全て奪ったが刺繍には全く興味が無かった。綺麗な刺繍を縫って集める事がフェシリアの唯一の楽しみだった。
「有難う、ライラ」
「ふふふ!お嬢様。あれもちゃーーんと持ってきましたよ!」
フェシリアはその言葉を聞いて、荷物の奥を探した。
そして薔薇の模様がついている小さな小さな宝石箱をみつけた。
フェシリアはそれを両手で抱きしめると堪えきれず涙を流した。
「ありがとう、ライラ。本当に、本当にありがとう。」
その宝石箱にはフェシリアが小さな時からなんとかエリザベスから死守してきた宝物が入れられていた。
“小さい時父に貰ったおもちゃの宝石。友達と交換した綺麗な便箋。メイドがこっそりくれたかわいいハンカチ。道に咲いていた綺麗な花の押し花。”
他人から見ればいらない物ばがりだったが、フェシリアにとっては宝物だった。
フェシリアはひとしきり泣いた後、グレアムから貰った雪の結晶のネックレスもその宝石箱にそっと入れた。
(せめてもの思い出に大切にしまっておこう)
「お嬢様に喜んで貰えて良かったです!」
「うん、本当に嬉しいわ。有難う。お母様は湯治とおっしゃったけど、そんなに腰が悪いのかしら…?」
ライラは小さい声で話し始めた、
「使用人仲間から聞いたんですけどぉ…まぁ、腰は普通に痛いみたいですね。ただ、前からイライラしたり、元気が無かったりしてたそうです。お医者様に見せても特に異常は無いらしいですけど、思いきって気分転換も兼ねてユリウス旦那様が湯治に連れて行く事にしたそうです」
「そう……お父様も心配ね」
「あっそれから!明日エリザベス様を引き取りに来るそうですよ。やっと静かになりますねぇ」
ライラはホッとした様に言った。
(はたして、素直に帰るかしら…?)
フェシリアは考えていた。




