私、エリザベス・トリスタンですのよ!
「ほんとーに申し訳無いですわ!グレアム様。あんな大事な場面であんな馬鹿みたいな事!フェシリア!謝っても許される事じゃなくってよ!しかも、転んで迷惑かけて、館に留まる。本来だったらあなたなんてねぇ、ここに嫁げるような人じゃないの。私みたいな容姿端麗な令嬢が似合うのよ!それをあんな…恥ずかしいたらありゃしないっ!フェシリア!聞いてるの?」
エリザベスはクドクド言った後で一息つくと、フェシリアに言った。
「お姉様、お母様はどうされました?手紙には一緒にと書いてあったと思いましたが?」
フェシリアが聞くと、
「……そんな事は今はどうでもいいのよ。」
と急に大人しくなった。
(ノーフォーク公邸にくることを反対されたのね。押し切って1人で来たんだわ。)
「ですからね、私、このノーフォーク公邸にしばらく滞在しますわ!グレアム様にこれ以上迷惑はかけられませんもの!この愚妹は私が見張ってやりますわ!残り約1ケ月ですか…その時には必ず私が実家に送り返してやりますわ!」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
その場にいた全ての人が驚いて声をだした。
お茶を運んできたメイド達さえも。
一同ポカーンとしていると、先程までいなかったヘンリーが部屋に入ってきた。
「グレアム様、少し宜しいでしょうか。今、早馬でこのような手紙が届けられまして」
ヘンリーがグレアムに手紙を持ってきた。
「ん?あぁ構わない」
グレアムは手紙を受け取ってみた。トリスタン男爵からのようである、開けて読んで見る事にした。
【ノーフォーク公爵様
誠に申し訳ない。次女が迷惑をかけているにも関わらず、今度は長女がそちらを目指して飛び出して行きました。妻と共に止めたのですが聞かず…ちょっぴりお転婆なもので少々暴れまして、妻が腰を強く打ち、今は療養しております…いやっほんの少しだけお転婆なもので。
申し訳ないがエリザベスを2〜3日そちらに置いていただけないでしょうか?そうすれば、エリザベスの気も済むでしょう。必ず私が引き取りに伺います。失礼承知でどうかお願い致します。 ユリウス・トリスタン】
はぁー…グレアムは大きくひとつ溜息をついた。
(やっかいな事になったな…トラブルが起きる気しかしない。だが、後々の事もある。フェシリアの家族を雑に扱う訳にはいかないしな…)
「エリザベス嬢、フェシリアの件に関しては私が対処いたしますからご心配にはお呼びませんよ。そんな事よりノーフォーク公爵邸へようこそ、楽しんで行ってください。
ヘンリー、エリザベス嬢をお部屋に案内してくれ」
と、グレアムは微笑みながら言った。
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
一堂はまた驚いた。
しかし、敏腕執事ヘンリーはさすがに声は出さなかった。
目を見開いたまま
「かしこまりました。」
と言って、エリザベスを客間に案内しに行った。
◆◆◆◆◆
その日は隨分うるさい…いや、賑やかなディナーだった。
「オーッホッホッホ!オーッホッホッホ!」
「グレアム様、とってもおいしいですわ!」
「グレアム様、このワインはどこの?」
「グレアム様、この後お話でもいたしません?」
「グレアム様、グレアム様!」
エリザベスの声が響き渡っていた。
グレアムは時々返事を返しながら苦笑いしていた。
ティアは初めて見る猛獣に怯えていた。
フェシリアは慣れていたから普通にディナーを食べていた。
(長い戦いになりそうだ……フェシリアにあまりキツイ事を言わなければいいのだが。)
グレアムはフェシリアの事を心配していた。
◆◆◆◆◆
ディナーが終わり、ライラとフェシリアは部屋に戻ってきた。
「何なんですかね!あの方は!前から思ってましたけど…」
ライラが怒りながら言った。
「まぁまぁ、ライラ。お姉様は昔からああいう人だから…ね?まぁ私も今回はビックリしたけど…」
フェシリアが優しく諭すと
「けど、いつもフェシリア様をばかにして!」
と言い、
「そうだ!さっき、ヘンリーさんから預かったんですよ」
と1通の手紙をフェシリアに渡した。
フェリシアが見てみると、父からのものだった。
【 親愛なるフェシリアへ
足の具合はどうだ?残り約一月後にはノーフォーク公より、お前に何らかの罰が下されるだろう。
我々にも少なからず何かあるだろう。
心苦しいが、これが貴族社会だ。理解して欲しい。母さんの手前お前をあまり庇う事も出来ない。せめて昔からの知り合いの修道院に頼もうと思ったが、それもノーフォーク公に却下され、もう打つ手はない。お前の進む道が険しくない事を祈っている。
ところで、エリザベスが今朝そちらに行くと言い出した。止めたのだが、母さんを突き飛ばして出ていった。もし、そちらに着いてエリザベスが傍若無人な振る舞いをしたら止めて欲しい。でも無理はしなくて良い。
一月後会えるまでお前が穏やかな日を送っていることを願っている。 父ユリウスより】
フェシリアは途中から涙が滲んできた。
(父はエリザベスだけでは無く、私の事も愛してくれていたのだわ)
ーーユリウス・トリスタンは若い頃社交界の華と呼ばれるアンに一目惚れをして夢中になった。位もあまり高くなく太っているユリウスは全く相手にされなかったが、何度も何度も求愛した。
無視される日々が続いたが、ある時アンは結婚している男性と恋仲になり、そして捨てられた。社交界でも噂となり、もう誰もアンを相手にはしなかった。ユリウス以外は…アンは諦めてユリウスと結婚した。それでもユリウスは嬉しかった。
やがて二人の間には子供が産まれた。アンは自分に良く似たエリザベスの事を溺愛したが、ユリウスと同じ髪色をもつフェシリアには冷たかった。
可哀想に思いユリウスがフェシリアを可愛がると、今度はフェシリアにキツくあたるようになった。あまり、自分が接しない方がフェシリアの為にはいいのかもしれない…そう思ったユリウスはフェシリアと距離をおくようにしたのだーーー
「意外とそんなに悪い人じゃ無かったんですね…」
後ろから手紙を盗み見たライラが悲しそうに言った。




