フェシリアの涙
「元気をだして、ね?」
「お嬢様、そうですよぅ。最近食も細くなってこのままじゃ骨と皮になっちゃいますよ。果物でも貰ってきましょうか?」
「ううん、大丈夫よ。有難う」
フェシリアはティアとライラに励まされていた。
ゼノーから帰ってきてから7日の日が経っていた。
あの日、グレアムはフェリシア達を馬車に置き去りにしたまま部屋に戻りそのまま下に降りてこなかった。
ーーそれからこの7日間一度も顔を合せる事は無かった。
ヘンリーに聞くと、朝早く仕事に行き、夜も遅くに帰って来ているようだという話だった。朝も夜も自分の事は気にしなくて良い、と言われている…と言っていた。
(完全に私はさけられているんだわ…)
フェシリアはショックだった。
逃げようとした自分が悪かったとわかってはいても、自分を置いて馬車から降りて歩いて行くグレアムの後ろ姿が忘れられなかった。
自然と涙が溢れてきた。
「お嬢様〜。目が枯れちゃいますぅ。もう止めて下さい」
「フェシリア、お願いもう泣かないで。私がお兄様に言ってあげるから、ね?」
(ティアに言って貰っても、もう駄目な気がする。)
この7日間泣いてばかりだった。何をしていても涙が出てくる。食べ物もうまく喉を通らない。
ドクターピートに診てもらい、車イスから杖になったが今は庭園を歩く元気も無い。
朝起きて部屋で、泣き、ボーとして、泣き、ティアやライラに励まされては泣き、眠る。そんな每日だ。
皆に迷惑をかけていると思う。だが涙が止まらない。
何だかんだいってもまだ16歳の少女なのだ。
(逃げなければ良かった。どうせヴィンセント勇者祭までしか一緒にはいられなかったのに…祭が終われば私は罰を受けて館から追い出される身だ。ティアとグレアム様の2人一緒の姿を見るのがとても辛かったから逃げだした。でも今はグレアム様の姿を見る事すらかなわない…)
フェシリアの目にはまた涙が溜まってきた。
「お嬢様〜。泣かないで。今日は夜もそばについていましょうか?」
ライラが言った。ライラの優しさが嬉しかった。無理やり少し笑って
「小さな子供じゃないんだから、大丈夫よ。有難うライラ、お休みなさい」
と言った。ライラも
「明日は笑顔!ですよ笑顔!、お嬢様。お休みなさい」
と部屋を出ていった。
◆◆◆◆◆
フェシリアはベットに横たわってみたけれど全然眠れなかった。
(ヴィンセント勇者祭まで後20日なのね…)
そんな事を考えているとまた、涙が滲んできた。
(大分たったけれど、今何時なんだろう。真夜中な事は間違いないわね。)
すると、馬の走る音が聞こえて館の前で止まった。
フェシリアはそっと窓のカーテンの隙間から覗いてみた。
グレアムだった。真夜中に帰ってきてティティスを馬舎に繋いでいる。
フェシリアにとって7日ぶりに見るグレアムだった。
涙が溢れて滲んで見えるがフェリシアは嬉しかった。
しかし、グレアムが館に入ってしまい姿が見えなくなってしまった。
(もう少し、もう少しでいいから見たい)
フェシリアは立ちあがった。音が響いてしまうので杖は置いていく事にした。薄暗い廊下を壁を支えにしながら進んだ。ゆっくり一歩、一歩と。
なんとか階段を下ると右手の食堂奥の調理場から小さな明かりが漏れていた。
(グレアム様がいる。一目だけでもみたい)
フェリシアは痛くなってきた左足を引きずりながら、何とか食堂に辿り着き入口からそっと中を覗いてみた。
(グレアム様だわ、水を飲んでる)
そう思った瞬間ここまで耐えてきたフェリシアの左足は限界を向かえ膝から崩れ落ちてしまった…。
「誰かいるのか。」
グレアムが低い声で言い、こちらに歩いてくる音が聞こえた。
◆◆◆◆◆
廊下に座り込んでいるフェシリアを見下ろして、グレアムはしばらく黙っていた。フェリシアも下を向いて目を合せる事が出来なかった。
「………フェシリアなのか?どうしたんだ、杖はどうした?」
フェシリアはハッとした、最近の自分はやつれ、髪に張りもなく、目も泣きすぎて腫れていた。こんな自分を見られたくなくて、
「だ、大丈夫です。ごめんなさい、部屋に帰ります。」
と下を向いたまま言った。
「いいから、こっちに来なさい」
グレアムはそう言うと、フェシリアに手を貸し食堂の椅子に座らせた。まじまじと顔をみると、
「いったい、どうしたんだ…食べてないのか?」
と聞いた。
久しぶりにみるグレアムにフェシリアは涙が我慢できなかった。
「グレアム様、ごめんなさい…うっ…ごめんなさい」
泣きながら謝ると、
「いい、もう謝らなくていいから」
と言ってグレアムは優しく抱きしめてくれた。
優しくされると涙というものは止まらないもので次々溢れてきた。
「う〜ごめんなさい…ヒック…ヒック」
「いいから、ね?」
グレアムは優しく言うとフェシリアの両頬を両手で包み顔を上にあげさせた。
「ヒック…ヒック………!?」
次の瞬間、フェシリアの唇にグレアムの唇が重ねられていた。
(…………!?)
フェシリアの思考回路は停止した。フェシリアとってファーストキスだった。体は固まりどうしていいかわからない。だが、グレアムは全然止めてくれない。
(でも、グレアム様と触れていると何だかフワフワ気持ちいい)
そんな事を考えていると、長いキスからやっと開放された。
「グレアム様…」
フェシリアがボーッとした頭で呼ぶと
「様はいらない。グレアムって呼んでごらん」
と言われた。言われた通りに
「グレアム…?」
と呼ぶとまたグレアムはまたキスをしてきた。
(………!?……ん!?)
今度は先程の優しいキスとは違い、激しく荒々しいキスだった。フェシリアの全てを奪おうかという程押し寄せてくる。フェシリアはキャパオーバーだった。嵐のようなキスはフェシリアが酸欠状態でフラフラになる迄続いだ。




