執事ヘンリーの思いは止まらない
敏腕執事ヘンリーは考えていた。
(何があったんだ…?)
今日は午前にフェリシア様御一行がゼノーに向かって出掛けて行かれた。親友に会われるとの事、天気もいいし良い一日になるだろうと思っていた。
フェリシア様が出掛ける時に同行者をルーク様と勘違いしてしまって、グレアム様が大層ヤキモチを焼き面白くなさそうだったが、それでも馬車で出掛けて行った。
昼過ぎの今、館に馬車の止まる音が聞こえ扉を開けるとグレアム様が1人で入ってきた。当初、夕方頃帰る予定だとグレアム様から聞いていたから驚いた。
もっと驚いたのは、フェリシア様を馬車から車イスに移すのをお願いされた事だ。
あの溺愛するフェリシア様を馬車に置き去りにし、こんなジジイとはいえ他の男に体を触る事を許すなど今までのグレアム様からは考えられない事だ。
グレアム様は初めからフェリシア様をいたく気に入っていらっしゃった。ちょっと怖いくらいに盲目的に…
ヨークの別宅でまだ14歳のフェリシア様を見かけただけで好きになり、婚約したいと言いだした。22歳の青年が。あの時はウィリアム様と奥様と頭を悩まし何とか引き延ばしに成功した。
その後も、暇を見つけては貢ぎものを用意し、足繁くヨークの別宅へ通っていた。奥様いわく全て空振りだったらしいが。
フェリシア様が15歳になると、時の流れと共に少しずつグレアム様は苛つき始めた。
ルーク様やティア様はお気づきでは無かったが、私達フェリシア様お守り隊の3人は気付かないフリをした。
だって、可哀想じゃないか。まだ15歳、社交界にも出ていない。何も楽しんでいないのに話した事も無い人に、まして公爵家なんて大変なところに嫁ぐなんて。
私達3人はフェリシア様にもう少し時間を与えてあげたかった。
冬になるといっこうに婚約しないエリザベス様に業を煮やしたグレアム様はウィリアム様と奥様に直談判された。
【もう、フェリシア様との婚約を待てない】と。
ウィリアム様と奥様はここで折れてしまった。執事である私は迷いながらも従うしかなかった。
ここからも大変だった。いざ、トリスタン男爵家に婚約を申し込むと先方はエリザベス様を是非と言ってきた。
本来、男爵家が公爵家にこの様な事を言うのは大変失礼な事だが、旦那様は位を鼻にかける方ではないし、トリスタン男爵は非常識の塊だしで、交渉は難航した。
グレアム様は自分がすぐにでも公爵を継ぐから何とか早く決めてほしいと旦那様に頭まで下げた。
あんなに公爵になるのを先延ばしにしていたのに!
やっとの思いで手に入れたフェリシア様は16歳になっていた。少女ながらに大人びていて美しい人だった。婚約パーティーで逃げられたが、馬で追いかけグレアム様本人が連れ戻してきた。
もう婚約を破棄するかと思ったが、全然そんな気は無いようで、フェリシア様が心配だからという理由で自分の部屋では無く、フェリシア様の隣の客間に寝泊まりしていた。ドクターピートに圧までかけて完治迄の日を延ばしていた。
長々長々、考えていたが、それくらい溺愛しているフェリシア様を置き去りにし自分の部屋に籠もってしまった。
(何があったんだ…?)
馬車に迎えに行った時、フェリシア様は大変悲しそうな顔をしておられた。
私は以前、大きなミスをした。フェリシア様が一月で帰れそうと言ったのを、グレアム様に伝えてしまい、左足を更に悪化させてしまった。
謝る私に、フェリシア様は許してくれるどころか、感謝まで述べてくれた。私はあの時気づいたのだ、このノーフォーク公邸の女主人となる方、グレアム様の奥様はフェリシア様こそ相応しいと!
待っていて下さい! 未来のノーフォーク公夫人!
この老執事ヘンリーがお助け致します!!
ヘンリーは今日起こった事件と自分の熱い気持ちを便箋10枚にしたため、ウィリアムとアリツィアに届けるよう使者に渡した。




