薔薇の貴公子はプレイボーイ?
「よう!飲んでるか?」
「リック皇太子殿下。はい、頂いています」
「なんだ水臭いな、グレアム」
「このような場ですので」
グレアムは王家主催の社交界に参加していた。
年に一度開催されるこのパーティーは王家からエドニア大国内全ての貴族に招待状が出される。中々の数だが、王家からのご招待とあって殆どの貴族が参加している。
王宮の中は綺麗に飾り付けられ、色取りのドレスを来た御婦人や令嬢達が華を添えている。
グレアムは女性が群がってくるので、あまり社交界は好きではない。だがこれも仕事のようなものだ、と割り切っている。
リック皇太子殿下が
「おい、あれ見てみろよ」
とグレアムに言った。
グレアムが会場内でひときわ人が集まっている場所の中心を見てみると、真ん中には孔雀のように飾り立てたエリザベスがいた。
「すごい人気だな。確かに美人だが見かけない顔だな、社交界デビューして間も無いのかな」
「エリザベス・トリスタン、フェシリアの姉ですよ」
グレアムが教えると、
「おーっ!あれが噂の姉君か。」
とリック皇太子殿下は驚いた。
「何か、聞いてたイメージと違うな。あれなら、婚約も早く決まるんじゃないか?」
「だと、いいんですけど」
二人が、しばし見ていると輪の真ん中にいるエリザベスと目があった。エリザベスの目が光った!と思ったら、周りにいる紳士達を押しのけこちらに向かって突進してくる。
押された紳士の2〜3人はふらついていた。
グレアムの目の前にたどり着くと、獲物を仕留めたような目でにっこり笑い
「グレアム様!こんなところで会えるなんて、運命を感じますわ!」
と言い、リック皇太子殿下の方を向き
「始めましてリック皇太子殿下! 私、エリザベス・トリスタンと申しますわ。グレアム様とは大変仲良くさせて頂いておりますの!」
と声高に言った。
「あ……あぁ 宜しく」
とリック皇太子殿下が怯んだところで、さすがにまずいと思ったトリスタン男爵夫妻が
「皇太子殿下、グレアム様申し訳ございません!」
「こっちに来なさい!」
と夫婦で両側からエリザベスを抱え去っていった。
かなり暴れていたが…
「……なんか。すごいな。聞いてたイメージを大分上回ってたよ」
「でしょうね」
「しかもさ…言いにくいけど、グレアム、彼女100%お前を狙ってるぞ…」
「…やっぱり、そう思います?」
ハァーッ グレアムは深い溜息をついた。
「どうすればいいと思います?」
「そうだなぁ…まず、姉君のグレアムに対するイメージを下げて貰った方がいいな」
「たとえば?」
「うーーん。そうだ!お前ちょっと2〜3人の令嬢とデートしてみろよ」
グレアムは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした
「何の為に?フェシリアにしか興味無いのに」
得意げにリック皇太子殿下は続けた。
「な〜に。硬派なお前なら、ちょっとデートしたくらいで幻滅〜〜!ってなるから。お前に興味なくして、別のやつと婚約するよ。それに、社交界の噂なんてさ、1年もたてば皆すっかり忘れちゃうぜ!」
「なるほど、一理ありますね。ただデートするだけですし」
「だろ!」
これが後々、幻滅〜〜!どころでなく女ったらしまで噂がいってしまい、記憶力の良いフェシリアがずっと覚えている事になろうとは、この時の2人は微塵も思わなかった。
◆◆◆◆◆
リック皇太子殿下の作戦が効いたのか、はたまたグレアムがのらりくらりとかわしたのが効いたのか。
社交界で会っても、エリザベスは以前程の勢いでは無くなっていた。
どうやら、エリザベスには次々婚約が申し込まれているらしいが、一月経っても三月経ってもエリザベスが婚約を決める事は無かった。
グレアムは内心イライラしていた。
ヨークの別宅でもまだ東屋に近づく事は出来ず、この1年での成果といえば、全く気の無い2人の令嬢とデートをしただけだ。
勿論ノーフォーク公爵夫妻もヘンリーもグレアムが段々苛ついている事には気付いていた。しかし気付かないフリを続けていた。
夏が過ぎ、秋が来て枯れ葉が散り、冬に入った頃。
ノーフォーク公邸リビングで夫妻とグレアムは暖炉を囲んで談笑していた。
「暖炉を囲んで飲む紅茶はおいしいわねぇ」
アリツィア夫人が2人に言った。グレアムが答える様に言った。
「そうですね、煖炉の前で飲むと格別です。ところで、もう待てませんね」
「……」
「……」
(きたーー!!)
2人は思った。しかし聞こえないフリをした。
「フェシリアの事ですよ。もう待てませんね。このままでは後少しでフェシリアまで社交界デビューしてしまう。誰かに取られる訳にはいかないんですよ」
いつものグレアムらしくない傲慢な言い方だった。
ノーフォーク公が
「しかしなぁ、グレアム。取られると言ってもフェシリアはものじゃないんだから…」
と言いかけてグレアムの方を見て全て察した。
(ゲームオーバーだ…明日トリスタン家に婚約申し込みの使者を出そう)
アリツィア夫人は突然黙った夫の視線の先にある息子の顔を見た。
(あぁ、色変わっちゃた…。打つ手無し、我々の敗北なり…)
二人は声を揃えて
「明日、婚約を申し込みましょう!!」
と言った。




