そびえ立つ高い壁
薔薇の貴公子グレアムは先程城下町で買った、クッキーの入ったばかでかい紙袋をかかえヨーク別宅の前に立っていた。
東屋の方を見ると、今日もアリツィア夫人と娘達が刺繍をしながら楽しそうに会話をしていた。
グレアムは その中にフェシリアの姿を見つけると、東屋に向かって歩きだした。
(あぁ、今日もなんて素敵なんだ!!)
グレアムの心臓は今までどんな戦地に行っても無かったくらい、強く波打っていた。
東屋の方へ少し歩くと一人の娘がこちらに気づいた。
気づいたと同時にキラリと目が光った。エリザベスだ!!
「グレアム様じゃありませんか!?」
エリザベスは雄叫びを上げ、グレアムの方に突進してくる。その声に触発された他の娘達も我こそとかけてくる。
「あらあらあら、困ったわねぇ」
アリツィア夫人も慌ててこちらにくる。
「今日は、どうされましたの?」
「お仕事は終わられましたの?」
次々と矢継ぎ早に質問してくる。グレアムはいつも通りの微笑を浮かべて、
「今日は城下町で人気のお菓子を皆さんにと思って」
と言った。キャー!という娘達の黄色い声が静かなヨークの町に響き渡った。
アリツィア夫人は(そんなに沢山?)と首を捻った。
その後はお決まりの今日始めてあった令嬢にグレアムを紹介する儀式が行われた。
(前より人が増えてるな…)
グレアムは思ったが、長い紹介を終えるといよいよ待望のフェシリアに向かって一歩を踏み出した!
が、目の前にエリザベスが立ちはだかっていた。
「グレアム様!これから私と小川を散策に行きましょう!」
(………え?)
「あらっ それなら私と」
「いやいや、私と馬に乗りましょう」
「何いってるの!私が先よ!」
令嬢達にもみくちゃにされて、全く前に進めない。
「今日はこれで」
グレアムは猛獣と化した娘達の前から逃げ出した。
(まだ日はある。次回こそはフェシリアと話す!)
この頃のグレアムはまだ余裕があった。
◆◆◆◆◆
その後もグレアムは時間を見つけてはヨーク別宅に顔を出していた。フェシリアに喜んで欲しくて、新しい布を持っていったり、おいしいお茶っ葉があると聞けば他の町まで馬を走らせ持って行った。
しかし、訪れる度に令嬢達は増え、娘達で作られた壁はどんどん厚くなり、グレアム紹介の儀式の後はもみくちゃにされ、フェシリアのいる東屋に近づく事は全く出来なかった。
グレアムにとっての最大の不幸はフェシリアには必ず姉のエリザベスがもれなくついてくる。という事だった…
◆◆◆◆◆
そんな事を繰り返していると、もうエリザベスの社交界デビューの時期を向かえてしまった。
アリツィア夫人は
(我が息子ながら毎回なにやってるのかしら。グレアム目当ての令嬢が増えたせいで、最近東屋から人がはみでてるわ。)
と思っていた。




