リック皇太子殿下の驚き
次の日朝早く登城したグレアムは、鍛錬の休憩中にリック皇太子殿下と話していた。
リック皇太子殿下はグレアムの父方の親戚にあたる。
皇太子殿下ではあるが幼いときから一緒に遊び、同い年であるリックはグレアムの数少ない本音で話せる親友でもあった。
「へー。トリスタン男爵家の次女かぁ。見たことないけど、(ほあー)グレアムが惚れるならさぞ、可愛いんだろうな。」
リックが欠伸をしながら言った。
「かわいいなんて言葉じゃいい現せないんだ。」
グレアムは真顔で言った。
「おっおう。まぁ、俺からしたら相手を自分で選べるだけうらやましいよ。俺は100%政略結婚。10歳の時からもう婚約者が決まっているからな。」
リックが言った。
「そうだな。両親には感謝しなくてはいけないな。それで本当は今日婚約を申し込もうと思ったんだが…」
「えっ?昨日初めて見かけたんだよね?俺、何か聞き逃してる?」
リックは驚いて聞き返した。
「いや。そうだけど。」
グレアムは、昨日のフェシリアとの出会いをもう一度リックに話し、ついでに父との書斎の一件も話した。
「あーなるほど。姉様の婚約確定待ちなんだな。」
リックは頭をボリボリかき、その後自慢の黒髪を慌てて整えながら考えていた。
(あー、驚いた。ウィリアム殿もさぞ頭を抱えたに違いない。苦肉の策だな、これは。しかし、フェシリアという娘。気の毒だがもうグレアムから逃げられないな。まぁ、でもグレアムはエドニア大国でも夫にしたい独身男性ナンバー1。問題ないか。)
「今日も城の業務が終わったらヨークに行くつもりなんだ」
グレアムが嬉しそうに言った。
「そうか、城下町の3番街の角に茶色いレンガのクッキー屋があるんだが、最近の若い娘に人気らしいぞ」
リックが教えると
「そうか!茶色いレンガだな。有難う、今日早速帰りに寄ってみるよ」
とグレアムがさらに嬉しそうに答えた。
そこで休憩が終わる鐘の音が響き渡り、グレアムは鍛錬に戻っていった。
「今度、ノーフォーク邸に行くよ!」
リックが言うとグレアムが振り返って
「あぁ、楽しみにしてるよ」
と答えた。
(まぁ…あんなに幸せそうなグレアム初めてみたからいっか)
リック皇太子殿下も仕事に戻って行った。
◆◆◆◆◆
昼下り、薔薇の貴公子グレアムの姿は、城下町の娘達に人気のクッキー屋の中にあった。飲食スペースも少しあり、そこに座る娘達からの視線はとても熱かった。燃えそうなくらいに。
しかし、グレアムはそんな事にかまっていられなかった。
約20種類の色とりどりのクッキーが籠に入って並べられていてどれを選べばいいのが分らなかったのだ。
(フェシリアはこのベリーのクッキーが好きだろうか…いや、それとも紅茶のクッキー…?)
何せ話した事も無いから、好みも何もわからない。
「旦那、随分迷ってるけどどうします?」
クッキー屋の女将が業を煮やして話しかけてきた。
「あぁ、待たせてすまない。そうだな、決めた。全種類10枚ずつ貰おう」
「へいっ…ぜんしゅる、えっ?全種類いいんですか!?」
「あぁ、選べそうに無いし、全種類で構わない」
「あっ有難うございます!!」
まさかのクッキー全種類大人買いをしたグレアムは、ばかでかい紙袋を携えて愛馬ティティスにまたがりヨークの別宅へ向った。




