愛馬ティティスは首をかしげる
グレアムはヨークの別邸からノーフォーク公邸へ馬を走らせていた。
行きよりも帰りのスピードは2倍といってもいい程早かった。グレアムにはもう周りの景色を楽しむ余裕なんて無かった。先程、母アリツィアの東屋で見かけた少女の事で頭がいっぱいだった。
(あの少女は誰だ。何という名前なんだ。)
帰るとき振り返って少しの間見ていたが、少女がグレアムの方を向く事は無かった。
(あの、黒味がかった茶色い目で見つめられたらどんな感じだろう)
もう少し見ていたかったが、エリザベスが今にもまた駆け寄ってきそうで、諦めて馬を出した。
(あの少女を見た時の感覚は何だ?)
グレアムはフェシリアを見た時体に電気が走ったように感じた。そして、今もまたフェシリアの事を考えるだけでひどく胸が熱くなる。
(あの少女の名前を知りたい)
(あの少女と知り合いになりたい)
(あの少女を誰にもとられたくない…)
(あの少女を僕のものにしたい…)
そんな、ちょっと怖い事を考えながら馬を走らせていた。
しばらくするとグレアムには珍しくニヤッと笑った。
(全て解決する方法があるじゃないか)
グレアムはさらに馬を早く走らせて帰り道を急いだ。走りながら、
「そうだ!それがいい!ティティス!やったぞ!」
と愛馬に語りかけた。
(あんた、さっきからどうしちゃったの?)とグレアムの愛馬ティティスは思った。
◆◆◆◆◆
ディナーの後グレアムは父ウィリアムと書斎で話していた。
父はもう母から聞いて知っていると思うが、トリスタン男爵家のフェシリアと婚約したいと再度話した。
「そうかそうか。グレアムの気持ちは良くわかった」
ウィリアムは言った。
「では、明日にでも使者をトリスタン家に…」
というと、突然ウィリアムは立ちあがって
「まてまてまてまて!ちょっ待って!」
といった。続けて、咳払いをし
「ウォッフォンッ トリスタン男爵家には長女がいるだろう」
と言った。
「ああ、いらっしゃいますね」
(ライオン娘…)
「長女が婚約がまだなのに次女が先に婚約はあまり良くないと思うんだ。しかも、うちは公爵家だし。」
「……」
「あと半年もすれば、長女は社交界デビューらしいじゃないか。美しい娘らしいし、デビューすればすぐ婚約の申し込みがくるだろう。長女の婚約が決まってからうちも申し込んだ方がいいと思うんだ。その方がその…フェシリアも家で気まずい思いをしなくていいだろう?」
グレアムは考えた。
(まぁ、そうだな。姉より先に妹がというのはあまり良くない。ましてあのライオン娘ではフェシリアに辛く当たるかもしれない…)
「その間に、ほら、ヨークの別宅に顔を出してフェシリアと交流を深めてみたらどうだ?」
(……なるほど。それはいいな。フェシリアと二人であの街路樹を散歩したり、小川を見たり。城下町のおいしいお菓子を買って行ったら喜ぶかな)
グレアムは何だか想像だけでワクワクしてきた。
「父さん、分かりました。婚約の申し込みは姉エリザベスが誰かと婚約した後にします。それまでは時間がある時ヨークの別宅に通う事にします。」
「そうかそうか。分かってくれたか息子よ。私も早くエリザベスが婚約してフェシリアが娘になる事を願っているよ」
ウィリアムは満面の笑みで言った。
「有難うございます。」
「少し一緒に飲むか?」
「飲みたいのですが、明日は早く登城しなければならないので休みます。また今度是非」
「そうかそうか。また今度なお休み」
「はい。失礼します」
グレアムは書斎を出ていった。
ウィリアムが少しして書斎の扉を開けると通路の遠くに心配そうなアリツィア夫人とヘンリーが立っていた。
ウィリアムが両手を上げて大きく丸の形を作ると二人は見合って大喜びした。




