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こちらとしては婚約破棄をご希望です!?  作者: 鈴本奈緒
第3章 グレアム・ノーフォーク公爵の憂いとそれぞれの想い
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ヨークの別宅

ヨークまでの道のりはそんなに遠くは無い。

街路樹に囲まれ綺麗に整備された道のりをグレアムは愛馬に乗って軽快に走っていた。

「ティティス、風が気持ちいいな。」

グレアムはお気に入りの芦毛の愛馬ティティスに声をかけた。ティティスは「ハイ!御主人様!」と答える様にブルゥゥンと顔を揺さぶった。


ティティスは頭も賢く足も速い。筋肉もほどよくついており大変な美馬である。頭が良すぎて馬が乗る人を選んでしまい、ティティスが気に入らないと振り落とされてしまうくらいに。

しかし、グレアムには始めて乗った時から従順に従い、グレアムもこの賢い愛馬を大変気に入っており最高の相棒だった。

一つ難があるとすれば、ティティスが芦毛でありグレアムの金髪碧眼の美しい見た目もあいまって誰から見ても白馬の王子に見えてしまう事だ。

薔薇の貴公子の貴公子は恐らくこの辺りからつけられていると考えられる…。


気持ちの良い風をうけて愛馬を走らせていると右側に小川が見えてきた。小さな水車も回っている。

「ティティス、もうすぐだ。」

グレアムはスピードを落とし始めた。緩やかに左にカーブする道を過ぎると右手にヨークの別宅が見えてきた。


華やかで厳格な見た目を持つノーフォーク公邸よりは小さいが、美しくガーデニングされた庭、ベージュの優しそうな色合いの建物、可愛らしい東屋。アリツィア夫人の人柄を現しているような邸宅は、両親が隠居後住むには相応しい住居だと子供達は思っていた。


◆◆◆◆◆


グレアムが別宅に着くと

「これはこれはグレアム様!お久しぶりでございます!」

と使用人が飛び出してきた。

「やぁ、母に頼まれごとをしてね。悪いがティティスに水を頼むよ」

グレアムは使用人にティティスの事を頼むと声のする東屋の方を見た。そこには、母アリツィアと何人かの娘達が楽しそうに布や糸を出して刺繍をしながらお喋りしていた。

(あれが、朝言っていた母の楽しみか。楽しそうで何より)

グレアムは微笑を浮かべなから東屋の方へ歩いて言った。


グレアムが歩きだしてすぐ、

「あら、グレアムじゃない。早かったのね、有難う。」

息子の姿を見つけたアリツィア夫人が立ちあがって嬉しそうに声をかけた。

それと共に一緒に座っていた娘達の顔が一瞬で赤く染まり、次々とグレアムの方へ駆け出してきた。

「あらあら…紹介しなくちゃかしら…」

慌ててアリツィア夫人もこちらに歩いてくる。


(すごいのが一人いるな…)

グレアムが立ちどまっていると、駆け寄ってくる娘達の中に凄まじい娘がいた。金髪碧眼見た目はちょっと見ないくらい美しいのだが、他の娘達を肘打ちしながら兎を仕留めるライオンの様な目つきで向かってくる。

(おぉ、隣の娘のみぞおちに入ったぞ。大丈夫か。)

そのライオン娘は周りの娘達を蹴散らし一番にグレアムの前に到着した。そしてグレアムを見上げ、声高々に

「始めましてグレアム様!私、エリザベス・トリスタンと申しますわ。」

と言った。


◆◆◆◆◆


グレアムはあまりの勢いに一瞬時が止まった。

本来、紹介もされていないのに女性から男性に突然名をなのる事は貴族としてはあまり良い事では無い。

しかし、目の前の女性はあまり教養が無いのか、それとも自分に大いに自信があるのか、自分の名前を宣言した後、鼻息をフーフーさせてグレアムを見上げている。

(エリザベス・トリスタン…あぁ、朝ルークが言っていた娘か)

グレアムはニッコリ笑うと

「グレアム・ノーフォークと申します。いつも母からお話は伺っております。」

とありきたりな挨拶をした。

(ルークはこの娘を絶賛していたが…美しいのは見た目だけのようだ。)

エリザベスに蹴散らかされた娘達とアリツィア婦人もグレアムの元に到着し、そこから一通りの自己紹介を終えた。

娘達はまだまだグレアムにいてほしそうだったが、全く興味の無かったグレアムはアリツィア夫人に買ってきた布と糸の入った袋を渡し、

「申し訳ない。この後所用がありまして、また今度是非。では」

と言った。

「残念ね、グレアム。今日は有難う」

アリツィア夫人がそう言った事でグレアム紹介の宴は閉会となった。


グレアムはティティスの元へ戻ると最後にもう一度東屋の方を見た。

娘達が立ったまま名残惜しそうにこちらを見ている。

アリツィア夫人は用はもう済みました!とばかりにもう東屋のイスに腰掛けていた。

(我が母ながら、中々のマイペースだな)

グレアムは思わず笑いそうになった。

その時、アリツィア夫人の横に1人の少女が座っている事にグレアムは気づいた。

(……?あの少女は紹介されてないな)

豊かな栗色のブルネットの髪、茶色だが黒色に近い深い瞳の色、ブルネットには珍しい透き通るような白い肌、清楚な雰囲気。


グレアムはその瞬間雷に打たれたような衝撃を感じた。

自分の中の何かが沸き立っているのもわかる。

少しの間見ていたがその少女がグレアムを見る事は無かった。






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