フェシリアの決心
アリーが働く宿屋の角のテーブルに二人は手を固くにぎりあい座っていた。
「フェシリア久しぶりだなぁ。ゆっくりしてけよ」
「有難う。ルドルフ」
宿屋の主人ルドルフは大柄で一見怖いが優しい人だ。
アリーに会いに来るうちにフェシリアも顔見知りになった。
「フェシリア、とっても心配したよ。フェシリアから返信がきてどれだけ安心したか」
アリーの目は涙ぐんでいた。アリーは綺麗な金髪をしているのだが、普段は後ろで一つに束ねている。
「車イスになんか乗っちゃって…本当に大丈夫なの?」
「心配かけてごめんね。足はもう大分いいの。明日診察があって多分杖になりそう。杖が無くても少しなら歩けそうよ」
答えたフェシリアの目からはもう涙が溢れていた。
「アリー、アリー話を聞いて欲しいの」
うんうん。とアリーは頷いた。
フェシリアは堰を切ったように話し始めた。
婚約パーティーでの事。グレアムとティアの話を聞いてしまった事。一生懸命アリーの元へ走った事。転んで捕まってしまった事。今の館での生活の事…。
話し終えるとフェシリアの顔は涙でグシャグシャだった。
「まったく、あんたの姉さんは相変わらずだねぇ」
「それよりも、その隠れ蓑の事だよ。まだフェシリアを館において利用しているんだろう?」
アリーは瞳から涙を流し、しかし怒りながら聞いてきた。
「わかんない。あの人が何考えてるのか、全然。
今もティアには特別優しいし、部屋も隣同士なの。だから私、利用されてる…?のかもしれない。わからない。」
アリーか慰めるように言った
「フェシリア、あんたは良く頑張ったよ。もう無理はしないんだ。ノーフォーク公爵の事好きだったんだろう?」
その言葉を聞くとフェシリアは机につっぷして泣いてしまった。
「うん。好きだった…だから辛くて逃げ出してしまった。」
「当然だよ、フェシリア」
アリーがフェシリアの頭をやさしく撫でた。
そう、フェシリアはグレアムの事が好きだったのだ。
アリツィア夫人の別宅にお邪魔している時、時々グレアムは訪れてきた。フェシリアはその時美しいグレアムに一目惚れをしてしまったのだ。グレアムが別宅に来ると、エリザベスや他の娘達は色めきあって、グレアムの元へ飛んでいった。グレアム目当てで来ている娘もいた。
フェシリアはその時14~15歳、すっかり青年の美しいグレアムに子供で地味な自分が相手をして貰えるとも思えず
見ている事しか出来なかった。
それなのに、婚約の話がきてフェシリアは天にも昇る気持だった。嬉しくて嬉しくて何度もアリーに聞いてもらった。アリーも
「聞き飽きたよ!」
なんて言いながら
「早くあんな変な家をでて、ノーフォーク公と幸せになりな。良かったねぇ」
と喜んでくれていた。
なのに…真実は残酷だった。
フェシリアは好きだったからこそ、我慢出来なかった。
何にも考えらなくなり、パーティーから逃げ出したのだ。
ひとしきり泣いた後、アリーは時計を見ると
「後15分か…」
と呟いた。そして確かめるように
「フェシリア、あんたこれからも我慢出来る?」
「毎日毎日、ノーフォーク公爵とティアさんの仲の良い姿を見せつけられて一月後の勇者ビィンセントの祭が終われば罰を与えられ家を追い出されるだろう。耐えられるかい?」
とフェシリアに聞いてきた。
「耐えられない。今でも毎日ティアとグレアム様を見るのが辛いんだもの。」
フェシリアは答えた。
「今なら助けてあげられる。婚約パーティーの日フェシリアがそんな目にあっているなんて知らなかった。悔しいよ。でも今なら助けてあげられる」
「アリー」
「この宿屋の裏口から出て、角のルイスおばさんの家に行くんだ。いいね?私も少ししたら必ず行く。合流したら、私の産まれた里へ一緒に行こう。田舎だけど、とてもいいところだよ。兄弟が多いからね、父さんも母さんもフェシリア一人くらいおいてくれる。そこでゆっくりこれからの事を考えればいいさ」
アリーが諭すようにフェシリアに言った。
アリーの気持が嬉しかった。フェシリアは涙を拭い取ると強い決意で
「アリー有難う。私、行くわ!」
と言った。
「あと7分!さぁ、早く裏口から行きな!気をつけて」
フェシリアは足を引きずりながら裏口に向った。裏口を出てルイスおばさんの家の方に向き直ると、
「やぁ、こんな裏口から出てどこに?また逃げようと?」
目の前には見たこともないくらい怒りに満ちたグレアムが立っていた。
フェシリアの背中にひとすじの汗が流れた。




