残酷な婚約パーティー
館に入ると沢山の使用人達が右に左にと婚約パーティーの用意に奔走していた。客室係のメイドから、トリスタン男爵家族は客間の一室に案内された
「今日はこちらをお使い下さい。少し休まれたらご準備をされて応接室の方へお越しください。」
メイドが、頭を下げて出ていった。
「何ここ?客間だけで家の半分の広さがありそう!家具も高そうだし。やっぱりノーフォーク公爵がいいわ!私」
エリザベスが声高に言った。
「ふぅ疲れたわ。ふぅん。この部屋真ん中で仕切れるのね。夫婦と娘分ね、すごいわ。エマ!パーティーの衣装持ってきて頂戴!」
トリスタン夫人が使用人のエマを呼んだ。
「はい、奥様。」
トリスタン家からは使用人はエマ一人しか連れて来なかった。当然準備はエリザベス、トリスタン男爵夫人、フェシリアの順だった。エマがエリザベスの用意から始めた。
「ママ、見て。やっぱりこのドレスが良かったでしょ。ほら、指輪も似合ってる。」
エリザベスがこの日の為に買って貰った赤いドレスを着て言った。
「そうね、素敵よ。エリザベス」
トリスタン男爵夫人は満足そうだった。
この婚約パーティーの為にトリスタン男爵家はドレスと宝石を新調した。貧乏男爵家には大きな出費だが、面子もある。
珍しくフェシリアにも新調してくれた。といってもエリザベスやトリスタン男爵夫人とは1ケタ違いのものだったけれど。
(まだかしら…エリザベスの用意は長いのよね。ノーフォーク公爵家の方をお待たせしてしまわないかしら。)
長かったエリザベスの準備が終わり、トリスタン男爵夫人、フェシリアの準備はサクッと終わった。
「そろそろ行くか」
トリスタン男爵が腰を上げると、エリザベスがフェシリアの方をクルっと向いた。
「フェシリア、そのネックレスよこしなさいよ」
その言葉にはトリスタン男爵夫妻もギョッ!と驚いた。
「その宝石、小さいけれど私の指輪に良く似合うと思うの。大体ブルネットのあなたには似合わないわ!」
これにはさすがにフェシリアも抵抗した。
「婚約パーティーなのに、何もつけないわけには行かないわ。」
何もつけないなど、男爵家の面子にかかわると考えた両親は珍しくフェシリアの肩をもった。
「エリザベス、また今度買えばいいじゃない」
「そうだ、そうだ。今日はフェシリアに着けさせてやろう。もっといいのを買ってやるから」
二人共もう必死だ。
「いや!私は今日!パーティーでつけたいの。くれないなら、パーティーには出ないわ」
トリスタン男爵夫妻は頭を抱えた。
数分後、応接室へ向かうフェシリアの胸にネックレスは無く、上機嫌のエリザベスの胸元で輝いていた。
◆◆◆◆◆
応接室に入るとノーフォーク公爵家の家族は皆揃っていた。その後、両家揃って一通り挨拶を終え談笑していた。
(弟になるルークも気さくだし、妹になるティアも控えめで話が合う。良かった。)
フェシリアは胸をなでおろした。肝心のグレアムはエリザベスにまた捕まっていた。
「フェシリア、フェシリアこっちへ」
声の方を見てみるとアリツィア夫人が手招きしていた。
フェシリアは立ちあがって夫人の方へ歩いた。
「こっちよ」
アリツィア夫人についていくと、ある一室の前で足を止め中へ入って行った。
「さぁ、入って。フェシリア」
フェシリアが中に入るとそこは宝石室だった。
「これかしら…ううん。フェシリアに合うのはこれね!」
綺麗に輝く大きな琥珀色の宝石がついたネックレスをアリツィア夫人はフェシリアの首にかけた。
「アリツィア夫人…貸して下さるのですか?」
「エリザベスの仕業でしょう。困ったものね…さぁ、戻りましょう!」
「有難うございます。」
フェシリアはアリツィア夫人の心使いとわかってくれた事がとても嬉しかった。
部屋に戻るともう来賓達が集まりだしているとの事で両家でホールに向い、客人達の出向かえをした。
ーーフェシリアにはここからの記憶が飛び飛びしかない。
婚約パーティーに沢山の人が来た事。
皇太子殿下に紹介された事。
部下の一人がグレアムに相談にきてグレアムが少し離れた時、子爵家の令嬢が二人きて、グレアムと何度もデートをした。あんたなんて子供を産むための道具よ!と馬鹿にされた事。
あまりに戻らないグレアムを探して館を彷徨い、やっと見つけたところでグレアムとティア二人の会話を盗み聞いてしまった事……
「戸籍上では兄だけど、血はいとこよりも遠いわ。本当に愛しているの。」
「わかっている。だが、時間が欲しい。必ず何とかするから。信じて待っていて欲しい。」
(イタタタ…この辺りの記憶でいつも頭が痛くなるわ)
その後、フェシリアはホールに一人戻った。
帰ってきたグレアムは皆の前で2人の婚約を宣言した。
歓声があがった。
フェシリアはぼう然としていた。
(このひとは私の何を気に入った訳でもない。ただ利用しただけだ。ティアとは、養女だし血は遠いから本来は結婚できる。だが名家だし、うるさく言うものもいるだろう。私という隠れ蓑の婚約者を作って彼女を守りたいだけなんだ…)
婚約の宣言の後にする、恒例の婚約者同士のダンスの前にフェシリアはグレアムに
「その前に少し…その行ってもいいかしら?」
と問いかけた。
トイレかな?と察したグレアムはニッコリ笑って
「どうぞ 待っているよ」
と答えた。
「有難う」
そう言うとフェシリアは裏口から出てゼノーの街へ駆け出した。
◆◆◆◆◆
「フェシリア!ゼノーの街に着いたわよ!」
目を開けるとニッコリ無邪気にほほえむティアがいた。
馬車はゼノーに到着した。




