第80話 クリスマス×王様ゲーム
クリスマスの夜。東京の中でも比較的田舎の多摩市でも雪が降ることはなくただ寒いだけ。
男女で2人きりになるわけでもなく高校生同士で集まって仲良く?ゲームをしている状況。
ただのゲームなら葵が顔を真っ赤にすることも詩音が勝利の笑みを見せることもなかっただろう。
始まりは詩音のこんな一言からだった。
「普通にゲームしてもつまらないからオリジナルのゲームを作りましょう?」
「嫌だ」
「どうしてよ」
「バグだらけでゲームにならないからだ」
「それは疑いすぎなのでは…?」
「忘れたか、こいつは文化祭の時とその後の軟禁事件を」
「それは覚えてますけど…」
「でも雅人的には嫌ではなかったんだろ?」
「…まあ」
「ならノーカン。正直オレ達じゃ雅人に勝てないって分かってるからつまらないんだよな」
つまらないと言われてしまえば雅人はなにも言い返せない。
なぜならゲーム内でもリアルでも手加減は大の苦手だから。
詩音は仁に目配せすると満足そうに目を細めた。
勿論これも詩音の仕込み通りである。
詩音がテレビゲーム以外のゲームをしようと言えば確実に雅人に警戒される。そこで仁の出番ってわけだ。
葵とのイチャイチャを堪能してしまった雅人は否定出来ない。
雅人を封殺すれば葵はゴリ押しでなんとかなる。
そう考えた故の詩音の作戦だった。
「ゲームと言ってもそんな簡単に作れるものではないわよ?雅人達が作ったTRPGもかなり頭が必要だし今すぐに作り出すのは不可能に近いんじゃない?」
「心配いりません。割り箸さえあれば出来るゲームですから」
この時点で雅人は詩音がどんなゲームをしたがっているのか予想を立てることが出来た。
葵の部屋にて悪魔のゲームが始まった。
「ではでは!これから王様ゲームを始めまーす!」
凄く楽しそうに割り箸を持つ詩音と物凄く嫌そうな顔をして詩音を睨む雅人の姿があった。
「一回の王様につき命令は一回。なんでもいいけどあまり過激なものはなし」
「はい!境界線はどこですか!」
「それはそれぞれが決めて」
「だけどモラルは守って頂戴ね?特に仁は」
「勿論っす!でも少し触るくらいなら…」
「手とかならいいわよ」
「っしゃ!」
隠しもせずにガッツポーズをする仁を冷たい目で見る葵と詩音。
まず最初のゲーム。
「王様だーれだ!」
一斉に引き抜かれた割り箸の先に色が付いていたのは詩音の割り箸だった。
「この番号が分からないからこそのワクワク。楽しいわねー」
「いいからさっさとしろ化け猫。因みに俺は2番だ」
「じゃあ3番と2番がハグで!」
「チッ!」
雅人の2番はブラフである。わざと違う番号に誘導したのにもかかわらず見破られてしまったのだ。
「俺3番」
「オレ2番」
最初っから男同士の熱い抱擁が決まった。
「くそ!なんで野郎とハグしないといけないんだ!」
「それはこっちのセリフだバカ」
泣く仁と熱い抱擁をして次のゲーム。
「王様だーれだ」
次の王様は葵だ。
「えっと…王様と1番の人が次のゲームまで手を繋ぐでお願いします!」
王様ということ葵とで雅人が1番であれば雅人と手を繋ぐことが出来るが葵の不幸体質はそう簡単に選ばせてはくれない。
「はい。葵。そんなにウチと手繋ぎたかったの?」
「…はい」
葵は少し不満そうだ。
次のゲームではまたしても詩音が王様になった。
「また神崎かよ」
「既に2回目ね」
「運良いのかもねー。さて、命令だけど…3番と4番がキスで!」
「おいおいモラルはどうなったよ!」
「キスは挨拶なんでしょ?なに騒いでるの?」
「それとこれとは話が別だ!ふざけんじゃねぇ!」
「ふざけてないしー真面目に王様ゲームしてるだけだしー。赤嶺が3番ってことは4番だーれ」
「オレじゃないぞ」
「アタシでもない」
王様の詩音を除き雅人が3番。残るは4番だが仁も梓も違うという。
では誰か。
それは一目見れば小学生にも解ける超簡単な問題だ。
「葵、顔真っ赤」
「わ、私です4番…」
恥ずかしいそうに自分が持つ割り箸に書かれている数字を見せた。
「はーい。では赤嶺と葵がキスをしまーす」
雅人と葵はお互いに目を合わせすぐにそらした。
葵はさっきより顔を赤くし雅人は眉間に皺をよせ詩音をにらんでいた。
雅人は葵の眼鏡を取るとそのまま自分の唇を葵の唇へと押し付けた。
「あぅ…んん…ぷはぁ」
「やべぇ…めっちゃ可愛い」
「恥ずかしいです…」
雅人のドS心に火が付きそうな頃に氷水をぶっかけられた。
「2人きりじゃなにからね」
「雅人だけずりぃぞ!」
「…モラルは守って頂戴ね?」
雅人が大人しく離れると葵は名残惜しそうに唇に指を這わせる。
「結構熱いのいったね」
「別に。したかったから」
「うわ、引くわー」
「ならキスなんて命令だすな。葵だけじゃない。神崎でも同じことするからな」
次のゲームの王様は梓だ。
「なんで女子ばっかなんだよ」
「男に一向に回ってこないな」
「運が悪いだけでしょうが。先輩はなにお願いします?」
「そうね…なら2番がこのゲームが終わったらコンビニでなにか買ってくるってのはどうかしら」
「いいんじゃないですか?ウチは3番」
「私は1番です」
「俺は4番」
「クッソが!」
怒り任せに仁が割り箸をへし折るがすぐに怒りは治った。
「ま、女子パシリにされるならいいか」
「お前それでいいのか」
「おう」
割ってしまた分新しい割り箸を用意してゲームを再開させるとパシリの仁が王様になった。
「やば…」
「おい。今なにを焦った」
「は?焦ってないし過剰に反応しないでキモいから」
「お前まさか男子には王様が行かないように仕込んでやがったのか」
「なんのことかウチわかなーい。そんなこと出来るわけないじゃん。ウチ手品師じゃないし」
「騙すのは難しいが誘導することは出来る。回す時には絶対に女子からだった。そこで王様の割り箸だけ少しだけ変えた。本当に微妙だが割り方が違う」
「たしかに…けど本当に微妙だぞ」
「狙ったならそれくらい見極めることは出来る」
「知らなーい」
未だに罪を認めない詩音だが顔が完全にやりましたと言っている。
だが証拠もなにもない状況で雅人達がそれを知ることなんてない。
「悔しい?ウチがやったっていう決定的証拠がなくて悔しい?ザマァ見ろ!」
煽りに煽られた雅人が詩音の顔を殴る寸前まで行き解散となった。
「あのー。オレの命令は?」
仁の悲しみを含んだ声はもはや誰も聞いていなかった。




