第81話 雅人×梓
クリスマスが終われば年越しまでそう時間はない。
雅人は冬休みの課題には全く手を付けずにいた。
脱力気味にソファ兼ベットに寝そべり手にはコントローラーが握られ目線はテレビに釘づけだった。
「あのね…人が来てるんだからゲーム止めなさい」
「そっちが勝手に来たんだろうが。何の用だ。勝手に合鍵作りやがって」
「持ってるのはアタシだけじゃないわよ?葵も持ってるし」
「防犯面ガタ落ちだな。んで、なんで来た」
「特に用はないけどなにかしてないと暇なのよ」
「勉強しろよ暇人」
「ゲームしてる暇人に言われたくないわ」
2人が話している間も目線は合わない。
「いる分には構わないが邪魔はするなよ」
「ええ、分かってるわ」
そう言うと梓は少しだけ空いている雅人の腹の前に座った。
「おい。邪魔すんなって言っただろ」
「座る場所がないんだから仕方ないじゃない。直接乗らないだけマシでしょ」
「そこまで散らかってないだろうが」
「ソファは座るものよ」
頑なにうごこうとしない梓を無視して雅人はゲームに向き直った。
部屋の中ではエアコンが暖かい風を送る音とゲーム音だけが響く空間となった。
雅人と梓は最初こそそこまで仲がいいわけでもなかった。
梓は雅人を監視対象と言い切り、弾圧など拘束事が嫌いな雅人は屈しない姿勢を見せ対抗した。
梓が雅人への好意を自覚したのは夏休み終わり辺りからだった。
海で遭難しかけた葵をその身一つで助けに行った時は呆れたものだが無事に帰ってきた時には少しばかり関心した。
何より大きかったのが生徒会選挙の時の乱入。
味方も助けてくれる人もいない状況での雅人の行動は側から見れば『空気読めないクソ野郎』だが梓からすれば『スーパーマン』だったに違いない。
雅人が乱入したことによりいつもの調子で喋ることが出来、見事生徒会長になることが出来た。
なによりの目標だった生徒会長にだ。
梓も恋愛初心者なのだ、これで好きになるなという方が難しいのである。
ただ梓は詩音のようにずる賢くもなければ葵のように保護欲を掻き立てることも出来ない。
葵より先に告白したまでは良かったが雅人の反応を見るに、恋人候補には入れてない気がしていた。
このままでは葵に負けてしまう。だから梓も少し強引に行くことにした。
「おい、見えな…!」
梓の顔がゲーム画面を遮った。すると雅人の唇と梓の唇がくっついていた。
梓が一度離れると2人の間に糸が引かれた。
「どういうつもりだよ。俺を犯罪者にでもしたいのか」
「警察になんて言わないわよ。ただ真面目な顔してゲームしてるなーと思って」
「説明になってねーんだよ。キスの説明をしろって言ってんだよ」
「好きな人にキスする理由って一つしかなくないかしら?」
好きと目の前でハッキリと言われた雅人は複雑な顔をした。
「あのな…」
「分かってるわ。考えてるのは知ってるわ。でも我慢するのだって大変なのよ」
「我慢出来なくてキスか」
「そんなところよ」
「そうかよ」
雅人が素っ気なく答えると梓は頬を膨らませた。
「年上お姉さんにキスしてもらってそれだけ?」
「そっちが勝手にしたんだろうが。あとお姉さんって言うな気持ち悪い」
「あら酷い。ならこれもしてあげる」
梓は体を雅人の方へ倒すと自らの淡い膨らみを雅人の腕にくっつけた。
「?」
「そのなにか?みたいな顔はやめてもらえるかしら?非常にイラッとくるわ」
「無理すんなって。お前にはまだ早い」
「まだってなによ!これでも日に日に大きく」
「葵はGだってよ」
「G…?限りなくAに近いBなのに…」
梓は服の上からは確認出来ないほどの自らの胸部を見下ろした。
「ってなんで雅人がそんなこと知ってるのよ」
「この前ラインで来た」
「痴女なの?」
「神崎と送り間違えたらしい」
「葵もいよいよドジよね…」
「葵らしいじゃねーかよ」
雅人はケタケタと笑うとまたもや強引に口を口で塞がれた。
「なんだよ」
「アタシの前でアタシ以外の女の話をしたから、その罰」
「メンヘラやめろ。怖いから」
「雅人にも怖いものあるのね」
「メンヘラはなに考えてるか分からないから無理。あと今のお前もなに考えてるか分からない」
「遠回しにメンヘラって言ってる?」
「大正解」
雅人が拍手をすると梓はその手を自分の胸部へと押し当てた。
「ね?あるでしょ?」
「お前が痴女になってどうする」
「致し方ない犠牲よ」
「己の羞恥心を犠牲になにを得てるんだよ」
「雅人が欲情しないかなーとか考えてみたり」
「残念なだらぺったんじゃしないな」
いつものように挑発して怒らせるつもりだが今の梓に挑発は最大の悪手だ。
なぜなら、挑発というのは否定前提での行為でありいつもの梓なら怒るだろう。
だが否定が壊れた車はそのまま突っ込むことしかしてこないからだ。
「そう。ならするまで攻めてあげる」
この時雅人は己が直感が逃げろと指令を出していた。
「逃がさないわよ」
腰辺りに座られいくら梓が軽いと言ってもいくら雅人が元不良で腕っ節に自信があるとしても歳が近い女子を持ち上げることは出来ない。
梓は雅人の腰の上で舌舐めずりをすると上半身を雅人の上に被せた。
「ね?わかるでしょ?」
「わかったからどけ」
「まだしないのね。意外と強情。ならこれは…」
「…っ!」
「あ、反応した」
耳を甘噛みされた雅人はわずかだが反応してしまった。
暴走車から悪魔へとジョブチェンジどころか転生した梓は執拗に雅人の耳を攻めた。
「やめ…やめろって…」
「いいじゃない。年上お姉さんに気持ちよくしてもらえるんだから」
梓は顔を真っ赤にして言った。
梓とて発情してるわけでもないのだ。正気の状態で異性に迫れば余程のゴリ押し系女子じゃない限り赤面するだろう。
つまり梓も大分無理をしている。梓を動かすのは葵に負けたくないという気持ちだけただそれだけなのだ。
「調子に乗りやがって…」
正気ならやり返しにも非常に弱い。
「あ、え…んん…あぁ…」
雅人の部屋からは梓の甘い声が響き渡った。




