7話 「えっ! これ勝てなくない~!?」 ①
一日が開けて、朝の九時頃。サリイは布団を敷くこともなく一夜を窓辺に座り込んで過ごした。服を変えたいと思った。ドレスは汚れきっていた。その上に纏うぼろはさらにひどい。
サリイは村を出ることにした。宿を出て、村を南北に貫く道路を南へ向かう。予定では、この道の先に分岐があるはずで、そこから東に向かうことになっている。
ある家屋の横、街道と小道の交差する場所で、小さな子供を連れた母親が座り込んでいた。母親は背を家の壁につけて、地面を生気のない目で睨みつけている。その隣で、小さな子供が母親の横腹に顔をうずめていた。サリイは二人の身なりを見て察する。金が、もうないのだろう。サリイは懐の金を、袋ごと母親に渡した。
母親はびっくりした顔をして、眼を丸くした。サリイが渡した袋を、痩せて細くなった手で恐る恐る受け取った。
母親は地面に叩頭した。
「ありがとうございます、ありがとうございます――」
子供は母親が何をしているのかよくわかっていないようで、丸まった母親の背をさすっていた。
サリイは言った。
「気にしなくていいんだ」
母親はほっとした顔をしてサリイを見つめてから、子供を見た。彼女はわが子を自分の方へ抱き寄せた。
その時、叫び声が聞こえた。サリイも母子も、道の先を見る。道の北側から人々の叫びが聞こえ、往来を人々が慌てながら行ったり来たりする。南側からも人の怒声が聞こえるようになった。
サリイが耳をすますと、西帝国だ、と誰かの声が聞こえた。
やがて村の中央の大通りを、一騎の兵士が人を馬で蹴散らしながら突進してきた。その兵士の装備は革の鎧で、長剣を馬の上から振り回している。
サリイはこの光景に、つい最近滅ぼされた故郷を思い出した。サリイは怒りが身体に満ちるのを感じる。大通りの真ん中に立った。
馬にのった兵士が叫ぶ。
「馬鹿が! 死にてえのか!」
兵士は叫びながら剣を振りかぶり、自分の馬がサリイの目の前に来た時、その剣を振り下ろした。サリ
イはそれを、右手の指でつかむ。
え、と兵士が間抜けな声を上げる。サリイは剣を指先で掴んで、上に立てている。兵士は剣をつかんだまま空中に浮かぶ形となった。馬は御者を失い、サリイの背後でたじろいでいる
兵士は頭から地面に落ちた。男はすっとんきょうな声を上げてから、慌てて這いつくばって逃げようとした。サリイはその鎧の背を持つ。
さらにもう一騎が突っ込んできた。この騎兵は槍を構えている。サリイは片手に持っていた兵士の背を持ち上げて、突っ込んでくる騎兵めがけて放り投げた。ひどい音がして、騎兵が投げられた兵士ごと馬から落ちて地面に倒れた。サリイの前後で二匹の馬がいななき、それぞれ別の方向へ走って逃げた。
「大丈夫か」
サリイは母親と子供に向かって言う。二人はすっかり怯え切っていて、足を震わせながら、壁に背をつけながら座り込んでいた。
レラは馬を仲間の後ろで止める。五騎の仲間が大通りにいた。レラは彼らの背後から向こうを見る。
「あんなことある~!?」
レラの言葉に、仲間の一人が振り向いた。
「ありゃただもんじゃねえぜ」
「見ればわかるよー!」
レラの背後から馬の足音がする。振り向くとさらに仲間が来ている。レラはこの騎兵らに片腕を上げて指示した。肘で折った腕を上げてから、手を前に倒す。それを見た騎兵らはレラのところで馬の脚を止めることなく横を通り過ぎて、道の先へ向かった。レラの指示を受けて、三人の騎兵が突進する。
サリイはこの三騎を認めた。サリイは集中する。全てがゆっくりと流れるような気がした。風のなびきをゆっくりと物体のように感じられる。地面を転がる小石、後ろに流れる髪の毛、すべてを目にせずとも感覚で把握した。サリイは、自分にこのような事ができることを不思議に思わなかった。あの研究室でこの身体を手に入れた時から、自分が強いと知っていた。




