7話 「えっ! これ勝てなくない~!?」 ②
一騎目、馬が目を丸くして興奮した顔でこちらを見ている。兵士は歯をむき出しにしながら食いしばる。長剣を振りかざした――。
サリイはこれれを片手で掴む。サリイの横を馬が駆け抜ける。兵士は剣を握ったままで、これに引きずられて馬から落ちた。
サリイはこの剣を取り上げて、向かってくる二騎目に投げつける。剣が風を切る音がした後、兵士の胸にあたった。兵士は真後ろに倒れて馬から落ちた。
三人目は怯んで馬をその場で止めたが、馬ににたたらを踏ませた後、突っ込んできた。サリイは道に大の字で立ち、馬をにらみつける。馬はサリイの表情に怯えた。突進をやめ、その場で足を躍らせる。
「お、おい!」
兵士が慌てて馬をいなだめようとするが無駄だった。馬はその場で飛び上がってから、踵を返して逃げ去った。男はその背で揺られて、馬から振り落とされないようにするのに精一杯のようだ。
サリイは前を見てから、後ろを見る。兵士たちは道の前後に集まって、サリイを見ている。サリイの側で親子が怯えていた。二人は完全に逃げ遅れてしまった。
――わたしのせいだ。
その時、一人が集団の中から馬を出した。その人は弓を構えている。サリイを射た。サリイは瞬間的に首をかしげてその矢を避ける。サリイの背後で矢は地面に刺さり、小さな砂埃を上げた。兵士は二発目を放つ。サリイは顔のすぐ前でそれを片手で受け止める。手に持った矢を、その手で握り折った。
「ありゃなんだ?」
言ったのはラコリーだった。彼は騎乗して、レラの隣に来た。レラは女を見ながら、ラコリーに言う。
「わからない。でも、普通じゃないねー」
ラコリーは鼻を鳴らす。戦場には化け物がいるものだが、ああいう類は初めて見た。こういうものは、関わり合いにならないのが一番だ。
ラコリーは叫んだ。
「やることは変わらん! 燃やせ!」
言われて、兵士たちが村の家屋を燃やし始めた。黒煙があちこちで上がり始める。
サリイは道に立ちながら、視線を正面に向けながら、この様子を見ていた。視界の中で黒煙が立ち昇っていくのを、怒りながら見ている。
レラは女の表情を見てぞっとした。女を指さして叫ぶ。
「あれは鬼神のたぐいか! ひどい目つきめ!」
ラコリーも女を見ている。
「放っておくぞ。下手に関わる必要はない」
言ってから、ラコリーは視線を女から外した。
「撤退するぞ! 十分に火はつけた! 退けい!」
それを聞いた部下たちは一斉に馬を動かす。傭兵団は村から撤退し始めた。
……火が燃え上がる。道路の横の家が燃えている。サリイは火の粉が振りちるのを見ていた。傭兵たちの姿がだんだんと消えていく。撤退したのだろう。村はすでにあちこちに火が回り、すべてが燃え上がるのは時間の問題だった。サリイは身体の力を抜いて、道の端でうずくまっているはずの親子を見た。
母親は子供を抱きながらこちらを見ていた。その目は恐怖で怯え切っている。目を丸くして、食いしばった口は唇を震わせていた。
「もう大丈夫だ」
その声に、母親が怯える。
「いやあ!」
母親は身体をのけぞらせて、後ろ手をつきながら下がる。背を壁にこすりつけながらサリイから距離を取った。
サリイはかなりショックを受けた。そんなに怯えることは、ないじゃないか。
「わたしは、別に――」
お前を傷つけるつもりなんてなかったんだ、というつもりだった。しかし母親は立ち上がり、こちらに背を向けると、こけつまろびつしながら小道を走って逃げ去った。
サリイは怒った。なぜそんな態度をとるんだ。自分はただ、お前を助けたかっただけなのに。
お見事、と近くで声がした。サリイが左腕を上げると、エステラ微笑みながらこちらを見ている。
「よくやったわね。まあ、当然だけど、それでも褒めてあげるわ」
ふん、とサリイは鼻を鳴らした。
サリイはぼろを翻しながら後ろを向くと、背の布の遊びを前に引っ張って、ぼろを頭からかぶった。無言のまま、炎上する村の大通りを歩いた。




