5話 歩き始めて、二人
サリイは村を出てから南へ歩き続けている。彼女はエステラの持つ地図データを頼りにしている。サリイは、それがどういうものかよく知らなかったが。
昼は細い街道を歩き、夜になると道からそれて野原で寝た。たまに道沿いに木立があったりすると、その下で休んだり寝たりすることもあった。
サリイは新しい機械の身体を得てからいろいろなものをなくした。食欲もその一つだった。どうやら睡眠欲求は、まだ少し残っているようだった。日が暮れて、月が出てきた頃に来る少しの眠気が、まだサリイに自分の中に残った人間らしさを思い起こさせる。
村を出て一週間目の日。サリイの左腕から声がした。
「どう? 新しい身体は。疲れを知らないでしょう?」
サリイは腕を上げることなく、歩き続けながら言った。
「最近、少し気分が悪いんだ。この身体のせいかな。それに……すこし自分の性格が変わったような気もするんだ」
言ってから、歩きながら、サリイは腕を上げてエステラを見た。小さな薄い画面の向こうの白い空間の中にエステラは佇んでいる。
「そうでしょうね。それでも、あなたはうまく適合できているわよ。その程度ですんでいるのですからね。正直、わたしは少し驚いているのよ」
サリイは自分の身体を思う。見た目のこと、変わったと自覚してしまう内面のこと。見た目については、少し見ただけではこの身体が機械だとわからない。しかしよく見れば肌に筋がいくつも走っていて不自然に思うだ。それでも肌の色は自然な感じだし、前よりも表面は滑らかでさえある。――内面はすっかり違う。心は憎しみに支配されている。悲しみに満ちていても、その波はおだやかだ。
サリイはふと、エステラに聞いた。
「その場所には何があるんだ?」
その場所、とは今の二人の目的地である。
「人類軍の軍事基地があるわ。宇宙監視のための基地で、かなり大きいはず。最後に機械側が観測したときの情報によると、小さな宇宙港も付設してあったみたい」
サリイはエステラの言葉が相変わらずわからない。聞き直したところでわからないから、もう聞き直しもしない。
「そこに行けば、みんなを生き返らせらえるのか?」
「そこでは無理よ。ただ、それをできる場所を調べられるの」
そうか、とだけ答えた。
サリイは街道に沿って進んでいた。あれからさらに何日かたっている。村を出てからいくつかの森を見て、分岐した街道の先、遠目に村を見て、商人の荷車とすれ違ったりした。そして今は先に村が見える。サリイはこの村に入ることにした。あまり疲れている感じはしなかったが、少し休んでみることにした。
村は街道を、村を南北に貫く形で通していた。道の左右に店が並ぶ。村とはいっても、それなりの規模だった。サリイは小さな宿屋に泊まる。二階建てで高さはあるが、横幅は狭い。
宿屋の一階に老女がいて、こちらを見ると近づいてきた。老女はこちらを見て怪訝そうな顔をした。サリイはぼろを頭から被っている。小汚く見えたのだろう。サリイは懐から袋を出して、金を見せた。
「一泊したい。いくら?」
「銅貨五枚でいいよ」
言われて、サリイはその通りに出した。
老女に案内されたのは二階の一番奥の部屋だった。狭い通路の左右に扉がある。案内された部屋は小さい。サリイが中へ入ると、老女はさっと踵を返してしまった。
部屋には大き目の窓があった。奥の壁の横幅いっぱいの窓だ。サリイは窓辺に座り込むと、自然と息を吐いた。
(もうずっと歩きっぱなしだ……)
実際は疲れていたのだろう。サリイは窓から村を見てみる。木造りの家が並んでいた。街道を行く人がいて、ある人は街道沿いの小さな露店で買い物をしている。平和な風景だ。だが戦争続きの世の中らだから、ここも往時よりは疲弊しているに違いない。
サリイは金銭を家から持ってきた。決して、他の家から何かを取ってくるようなことはしなかった。だがサリイの家は裕福ではなかったから、手持ちは少ない。
サリイは少し、頭が痛かった。そのまま窓辺で膝を立てながら少し寝ることにした。日はまだ高く登っている。




