3話 狂戦士
固い金属でできた地面に伏しているサリイは、顔だけをなんとか上げる。台上の箱から覗く少女は、現実のものとは思えない儚さと美しさを見せていた。サリイが眼から絶えない涙を流していて、視界がゆれているからそう見えるのだろうか。彼女はもはや立てない。
少女の年の頃はサリイよりも少し幼いくらいに見える。だが、その病的に透き通った肌はつややかで、見立てた幼さにはそぐわない上品さと成熟さを感じさせる。
サリイは痛みに歯を食いしばりながら、力みながら叫んだ。
「あなたは?」
少女は上品に微笑みながら、冷たく厳かな視線でサリイを見下ろした。
「お前、もうすぐ死ぬわ。背中を深くきられたのね」
「助けて……みんな死んじゃった! あいつらに、殺された!」
サリイは嗚咽交じりに声を上げた。
「いいわ。わたしがあなたを助けてあげる」
扉の向こうから男たちの声が聞こえた。男たちは扉を蹴りつけたりして、なんとかこちらへ入ろうとしている。何人もの男の恐ろし気な声が響いている。
サリイは恐ろしくて仕方がない。手が、痛みで、恐怖で、震えてとまらない。
サリイは少女を見る。
「そこにELDEN22-001-03がある。それはまだ試作中の軍用義体だけど、あなたにあげるわ。もともと人口知能を載せる予定だったんだけど、人形どもにも使えるように開発は進められていたのね。だから、人間のお前にだって使えなくはないはずだわ」
サリイには少女の言葉は何一つ理解できなかった。だんだんと身体から力が抜けていく。頬が冷たい金属床についた。意識はもうろうとしていて、自然と瞼を閉じていた。ゆったりと眼を開ける。部屋の中央には筒状の太い管が台座から天井に伸びていた。その中に――今なら見える――首のない身体が液体の中に浮かんでいる。その身体の色は部屋の薄闇の中では黒く見える。前が割けていて、身体の中が見えている。その中は、黒い節だった枝のようなものが無数に伸びている。身体の表面は磨かれていて、金属のような、鈍い光を放っていた。
試験管内の圧力が一気に増して、管が割れた。義体は地面に倒れた。義体内部の“触手”が金属床に触れ、その表面を無数に枝分かれしながら伝い、サリイの方へ走る。
サリイはそれを茫然と見ていた。あの身体から何かが、恐ろしいものが伸びてくる。
少女が声を上げて笑った。その眉は寄せられ、その眼は憎しみか、激情の色を露わにしながらサリイに向けられていた。
「人形たちはそれをBerserker bodyと呼んでいたわ。それは古代の、狂える、最強の戦士の名よ!」
ああ、と少女は感極まった声を上げた。
「お前にそれが使いこなせるかしら!」
サリイの意識はそこで途切れた。
少女の狂った笑い声が部屋に響く。




