散る火花と暴かれた真実
キィィィンッ……ッ!!!!
静まり返っていたホールに、金属と金属が激しくぶつかり合う甲高い悲鳴が響き渡った。
アゼルが狂乱のままに振り下ろした一撃を、アレクは寸前のところでガウンの懐から抜いた短剣で受け止めていた。だが、アゼルの憎悪が乗った重い斬撃を受けきれず、アレクの細い足元が激しく擦れ、大理石の床に不穏な音を立てる。
「くっ……! 相変わらず、力任せの野蛮な剣術だな……ッ!」
アレクは歪んだ笑みを張り付けたまま、短剣の刃をすべらせてアゼルの剣をいなし、後ろへと跳躍した。
「ハァッ……ハァッ……ッ! 黙れ……ッ! アルテナをどこへ隠した……ッ!!」
アゼルは間髪いれずに踏み込み、怒涛の連続斬りを繰り出す。
かつて学園で「完璧」と称えられた美貌は影を潜め、血走った琥珀色の瞳には、大切なものを奪われた獣のような狂暴さと殺意だけが宿っていた。
刃が風を切り、アレクのガウンの袖を浅く切り裂く。鮮血が散るが、アレクは痛みに顔を歪めるどころか、喉の奥で「ヒッ……くくくっ」と狂ったような笑いを漏らした。
「必死だな、アゼル……ッ! だが、お前が僕を殺したところで何になる!? 上に行ってみるかい? ベッドの上で、僕に与えられた温もりを抱きしめて震えている彼女の元へ!!」
「だ、黙れ……ッ! アルテナが……アルテナが自らお前を選ぶはずがないッ! 彼女は僕を……っ!」
「僕を愛している、とでも言いたいのかい!?」
アレクはアゼルの剣を間一髪で交わしながら、容赦なくその心の傷口に爪を立てた。
「お前がディアドラと楽しそうに笑い合っていたあのサロンで、彼女がどれほど絶望的な顔をして立ち尽くしていたか知っているかい!? お前が『配慮』という名の傲慢で放置したから、あの子は傷つき、自分を否定し……そして僕に『私を救ってくれたのはアレク様だけだ』と涙を流したんだよ!!」
「っ……あ……ぁ……っ!」
アレクの吐き出す言葉の一つ一つが、鋭い毒針となってアゼルの胸を貫く。
「……違う……ッ! 僕は……僕はただ、彼女を守りたかっただけなんだ……ッ!!」
アゼルの口から、血を吐くような叫びが漏れ出た。
剣を構える手が激しく震え、その琥珀色の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「貴族社会の醜い嫉妬や悪意から……無垢なアルテナを守るには、僕が『完璧な婚約者』として冷徹に立ち回るしかないと思っていたんだ! 贔屓すればアルテナが狙われる……だから距離を置いた! だが、そんなものは僕の愚かな自己満足だった……ッ!」
振り下ろされるアゼルの剣筋が、溢れ出す感情とともに乱れていく。
「彼女が欲しかったのは、陰からの庇護なんかじゃない……僕の温もりだったんだ! 『好きだ』というたった一言だったんだ……ッ! なのに僕は……自分の身分や立場にかまけて、彼女の孤独に気づいてやれなかった……! 寂しい思いをさせて、偽物の温もりに縋らせるまで追い詰めたのは……他ならぬ僕だ……っ!!」
後悔と痛恨に胸を抉られながらも、アゼルは凄惨な眼光でアレクを睨みつけた。
「だがなアレク……ッ! どんなに僕が愚かで、どんなにアルテナに嫌われようとも……僕の命が果てるまで、彼女を誰にも渡しはしない!! 僕の全てを捨ててでも……僕のこの手で、もう一度アルテナを抱きしめるんだ……ッ!!」
「ハッ、哀れで醜い愛の告白だなあ、アゼル……ッ!」
熱い想いを吐露し、隙が生まれたその一瞬を、アレクは見逃さなかった。
アレクは短剣の柄でアゼルの手首を強く打ち据え、体勢を崩したアゼルの胸元を思い切り蹴り飛ばした。
「ぐはっ……っ!?」
ドサリと激しい音を立てて、ホール中央の階段下に倒れ込むアゼル。手から離れた剣が、乾いた音を立てて大理石の床を転がっていく。
「ハァ……ハァ……。ざまあないな、フレスベルグ侯爵家の『神童』様」
アレクは乱れた息を整えながら、肩を揺らしてアゼルへ歩み寄った。胸元から流れる血を指で拭い、それを嘲笑うようにペロリと舐めてみせる。
「どれだけ綺麗事を並べ立てようと、手遅れなんだよ。お前の『配慮』が……一番愛する女を僕のベッドへと追いやった。お前が絶望の中でのたうち回る姿……あははっ、最高の気分だよアゼル!!」
倒れ伏し、荒い息を吐きながら血の味のする唾を吐き捨てるアゼル。
勝ち誇るアレク。
二人の憎悪と狂気が渦巻くその頭上――螺旋階段の上の暗闇から、カサリと、小さく震える足音が響いた。
「な……なにが……起きているの……?」
二人が見上げると、そこには、あまりの騒音に耐えかね、アレクの言いつけを破って部屋を抜け出してきたアルテナが立っていた。
薄桃色のナイトドレス姿で、手すりを固く握りしめ、青ざめた顔で階下を見下ろすアルテナ。
その視線が、血を流して倒れるアゼルと、短剣を手にして昏く微笑むアレクの姿を捕らえた瞬間――館の時間が、ぴたりと止まった。




