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第80話

 今日からゴールデンウィークが始まる。


 美絵は、たしか最初の二日間はバイトが入っていないと言っていたはずだ。

 まだ午前中の早い時間帯だったが、意を決して電話をかけた。


 ――プルルルルッ……


 スマホを持つ手のひらに汗を感じながら、意味もなく狭い部屋の中を歩き回り、耳元で鳴り続けるコール音を聞く。


(……出ない)


 応答がないまま留守番電話に繋がり、途端に大きな不安が押し寄せてきた。


 美絵からの連絡は無視しておきながら、自分は一度目の電話に出てもらえないからといってショックを受けるなんて。

 その身勝手さにうんざりしてしまう。


 ただ――そのあと十秒もしないうちに、手に持ったままのスマホが震えた。


 美絵からの、折り返しだ。


 すぐに通話ボタンを押す。


「……っ、はい」


『祥ちゃん!? ごめん、すぐ出られなくて……!』


 焦ったような声が飛び込んできた。


 僕の名前を呼んで謝る、可愛い声。

 それを聞いただけで、張りつめていた心がほどけ、どうしようもない愛しさで胸がいっぱいになる。


「……こっちこそ。この前、会う約束してたのに連絡返さなくて……本当にごめん」


 深く後悔しながら謝ると、電話の向こうから、『ゴオオオッ……』と低い走行音のようなものが聞こえてきた。


「……もしかして、出かけてる?」


『あっ……うん。今、福島に帰ってる新幹線の中で。祥ちゃんから電話きたから、デッキに出てきたの』


(そうだったのか)


「ごめん。移動中に」


『ううん。声聞けて嬉しい……』


 その響きは、泣き出しそうなくらい切なく、優しくて。

 僕に対する、溢れるほどの愛情が詰まっているように感じられた。


(別れ話ではない、ってことか……)


 正人の言った通りだった。

 声色一つでわかった。

 美絵は僕を拒絶しようとなんてしていなかったんだ。

 やっぱり、あの日逃げずに、すぐに話をするべきだった。

 勝手に決めつけて、また辛い思いをさせてしまったかもしれない。


 そう気づき、胸が締め付けられるように苦しくなった。


『私、東京に帰るの明後日の朝で、その後すぐバイトだから……次に会えるのは、明後日の夜遅くになっちゃうかも……。祥ちゃんの予定はどうかな?』


 申し訳なさそうに尋ねられる。


 僕は明日も明後日も、終日バイトが入ってしまっていた。

 それに何より、美絵の声を聞いた今、明後日の夜までなんて待てなかった。

 すぐに会って、顔を見て話したかった。


 少し考えたあと、口を開いた。


「……福島で、会える?」


『えっ!?』


 電話の向こうで、息を呑んで驚く気配がする。


「今日は予定ないから、日帰りなら行けるかも。ゴールデンウィークだから、新幹線の席が取れたらだけど……」


 そう言うと、少しの沈黙のあと、涙ぐんでいるような返事が返ってきた。


『……うん、会えるよ。……会いたい』


「……じゃあ、待ってて」


 それだけ言って、すぐに電話を切った。


 急いで新幹線の予約サイトを開き、チケットを調べる。

 奇跡的に、一時間後の便に数席だけ空きがあった。


 はやる気持ちで座席を確保し、床に置いていたリュックに必要最低限の荷物だけをつめて、弾かれるように家を出た。

この作品を読んでいただき、本当にありがとうございます。

残り3話となりました……!

ぜひ最後までお楽しみいただけると幸いですm(_ _)m

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