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第61話

 ベッドの上。

 僕の腕の中で、幸せそうに眠っている美絵を見つめる。


 元旦に地元で彼女の両親に会ってからというもの、僕の心境には大きな変化があった。


『仲良くしてもらって、本当にありがとう』

『あの子を、よろしく頼むね』


 彼女の面影がある二人から、その言葉をかけられた時の重みを思い出すたび、背筋がピンと伸びるような思いがする。


 美絵とは、一時的なお付き合いなどではなく、ずっと一緒にいたい。

 ずっと笑顔にさせられる男になりたい。

 ご両親が大切に育ててきた美絵という一人の女性を、それに負けないくらいの愛情で守っていきたい。

 そう思うと、どれほどバイトが忙しくても、授業の課題やテストが山積みでも、不思議とやる気が底から湧き上がってきた。


 けれど、自分を律して「正しい男」であろうとするあまり、目の前の彼女の寂しさを置き去りにしてしまっては本末転倒だ。


 最近、美絵がやきもちを焼くことが増えた。


「祥ちゃん……今日カフェテリアで、同じクラスの子に、腕触られてたでしょ」

「えっ、腕? 全然気づかなかった……」

「もう……祥ちゃん、ガード甘いよう……」

「ご、ごめん……」


 美絵以外の女性の言動には、どうも疎い僕だ。

 それが仇となり、最近はよく彼女を膨れっ面にさせてしまっている。


 それが、僕たちの関係が深まり、本音を見せてくれるようになった証拠なら嬉しいけれど。

 僕に至らぬところがあって不安にさせているのだとしたら……。


 だからこそ、最近よく発動される「帰りたくない」攻撃にも、つい甘くなってしまう。


 今日もそうだ。

 駄々をこねる彼女を優しくたしなめるつもりが、結局はこうして抱きしめてしまっている。


 ただ、美絵がワガママを言うのは、決まって、二人とも翌日の朝に授業やバイトがない日だけ。

 彼女なりに二人の生活を気にかけてくれているのだろう。

 そんなところもいじらしくて、つい受け入れてしまうのだ。


 本音を言えば……僕だって、ずっと一緒にいたい。

 この腕の中に閉じ込めて、ずっとじゃれ合って、その笑顔を独り占めしていたい。


 けれど、もしその欲求に完全に身を任せてしまったら。

 きっと、目の前の美絵だけに夢中になって、大学も、バイトも、将来のことも、全部どうでもよくなってしまうだろう。

 そして彼女にも、同じように僕だけを見ていることを求めてしまうかもしれない。


 そのくらい、僕は彼女のことが……自分でも怖くなるほど好きなのだ。


 必死にけじめをつけようと律しているのは、二人の生活を壊さないためだけじゃない。

 自分自身が彼女への愛に呑み込まれて、制御不能になってしまうのが怖いからでもある。


 その柔らかい髪に触れる。

 今はまだ、この幸福に溺れるわけにはいかない。

 いつか、胸を張って彼女のすべてを預かれる男になりたい。


 彼女を起こさないようにそっと、だけど強く抱き寄せながら、心の中で再度誓うのだった。

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