表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/47

第33話

 アパートへの帰り道。

 秋の虫が鳴き始めた夜道を一人歩きながら、僕は定食屋での自分の発言を反芻していた。


『初めて明かすのは、本人がいい』

 正人の勢いに押されて、自然と口を突いて出た自分の言葉。


 ――それってつまり、彼女に「告白する」ってことだよな。


 ただの同級生という安全な立ち位置を捨てて、自分の気持ちを相手に突きつけるということだ。


 自覚した途端、心臓がドクンと重い音を立て、胃のあたりがキュッと縮み上がるような感覚に襲われた。


 ◇


 その日の夜。

 疲れているはずなのに、なかなか寝付けずにいた僕は、浅い眠りの中にいた。


 夢の中の景色は、夕暮れの河川敷だった。


 オレンジ色の光の中、僕は美絵と向かい合って立っている。

 意を決して、ずっと胸に秘めていた想いを口にする。


『……好きだ。俺と、付き合ってほしい』


 すると、美絵は少しだけ驚いたように目を丸くした後、ひどく困ったように眉を下げた。

 そして、どこまでも優しく、残酷な声で口を開く。


『あ……ごめん』


 夕風が、彼女の栗色の髪を揺らす。


『祥くんのことは、「同郷の同級生」としてすごく安心できるし、信頼してて。友達としては、すごく好きなんだけど……』


 彼女は申し訳なさそうに視線を落とし、小さく首を横に振った。


『そういう、恋愛対象としては見られないの』


 胸の奥が、冷たい氷水で満たされていく。


『……ごめんね、《《瀬川くん》》』


 せっかく名前で呼んでくれるようになったはずの彼女の口から、再び他人行儀な『瀬川くん』という苗字がこぼれ落ちた瞬間――。



「――……っ!」


 ハッと息を呑み、勢いよくベッドから跳ね起きた。


 暗い部屋の中。

 額にはびっしりと冷や汗が浮かび、心臓が警報のように早鐘を打っている。


 荒い呼吸を整えながら、両手で顔を覆った。


 ……夢、か。

 あまりにもリアルすぎる夢だった。


 そして何より恐ろしいのは、あの返事が「絶対にありえない」とは言い切れないことだ。


 彼女が僕に向けてくれる優しさや笑顔は、ただ「地元が同じで、昔から知っている信頼できる友達」に向けられたものだとしたら?


 あの夢の通り、恋愛対象として見られていない可能性は、十二分にある。


「……告白、怖ええ……」


 誰もいない部屋の暗闇に向かって、思わず本音がこぼれ落ちた。


 今まで野球の試合でどんなピンチのマウンドに立っても、ここまで足がすくむことはなかったのに。

 恋というものは、人をここまで臆病にさせるのか。


 僕は自分の情けなさにため息をつきながら、再び重い頭を枕に沈め、タオルケットを頭から被った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ