貧富の差
トイレと電気・・・。
自分にはトイレが必要ない。
たまに、排せつ物として、乾燥した小さな塊を出すと、ごみとしてポイっと捨てる。
電気、発電の仕組みは一応知ってる。
電磁波を吸収し、それを変換して使用するのが一般的だ。
ただ、この星では原子力とか火力を使うらしい。
そっちはよくわからないな。
老人の家に向かい、トイレを見せてもらう。
なんだろう、ただの汚いスペース?
参考になりそうもない。
ついでに電気も確かめるが、電柱からの盗電だな。
あの二人に盗みをさせるのは気が進まない。
排水も給水もどうしようか・・・。
普段水として使用されているのは、川の水だ。
緑の水草が鬱蒼と茂っており、あまりきれいな水とは思えない。
それでも、配水管とポンプさえあれば用意は出来るだろう。
簡単なろ過システムも作れなくはない。
ただ、材料を廃材だけに限ると、それも難しい。
現状修理頼みの収入では材料を買ってくるということまでは出来ないだろう。
そもそも、売っているのだろうか?
トイレの周りをうろうろしながら悩んでいると、老人が寄ってきた。
「おいっ 変な外人。今度は何をしようとしとる。」
「あぁ、トイレを作りたいんですが、材料が足りなくて・・・」
老人は見張りを呼ぶと、いくらか金を握らせて何か説明をしている。
「こいつについていけ、わしの家にもつけろ。材料費は出してやる。」
予想外の幸運に、老人の手を両手で握りブンブンと上下させる。
老人は迷惑そうな顔をしながら「とっとと行け」とだけ言った。
見張りの男は、古くて錆びた自動車に乗って老人の家の前に止めた。
この辺は、資料で学んだところだ。
手を挙げてからドアを開けると、中に乗り込み、目的地を告げる。
あれ、目的地はどこだろう・・・・。
見張りの男は気違いを見るような目でこちらを見ている。
まぁ、お前にどう思われても構わない。
処理場から道路に出て、町へ向かう。
幾つかの建物が見えて、そのうちの大きな建物に入る。
ケイヨウホームセンターと書かれた文字を見つける。
日本企業なんだろうか。
それにしても、町はスラムとは全然違うな。
まず、臭くない。
道に何かの死骸なんて落ちていないし、沼に誰かの糞尿が浮いてたりもしない。
道路はぬかるんでいないし、待ちゆく人から異臭もしない。
逆に町の人はじろじろとこちらを見ている気がする。
まぁ、どうでもいい。
今はトイレの材料だな。
幾つか適当な配管を見つける。塩ビってなんだろうか。
100wの太陽光パネルを見つけて、それを一通りセットで注文する。
水中ポンプや適当な工具を揃えて、見張りの男に渡す。
予想してたより、金額が多かったようだ。
見張りの男は苦い顔をしている。
まぁそれもどうでもいいのだけれど。
再び車に乗って、スラムに戻る。
老人の家の前で止まって荷物を下ろす。
材料さえそろえば、トイレを作るのなんて簡単だ。
地面に穴を掘り、配管を通す。現状は沼へ排水だ。
勾配には十分配慮する。
角度が強くても弱くても流れない。
この辺は排水の基本である。
小屋を建てて、拾ってきた便器を設置する。
観光ホテルの廃品であろうトイレは異常に豪華だった。
どこがいけないのか調べてみたら、かすかに縁にひびが入っていた。
この星の貧富の差は、惑星連盟でも酷いほうだろう。
川にも水中ポンプを設置し、配管でつないで水をくみ上げる。
太陽光パネルだけでは不十分だったので、老人の家の盗電の電力とつなぐ。
フロートスイッチでの起動にして、受水槽代わりのバスタブに水を溜める。
給水はこっそり少女たちの小屋にもつないでおいた。
一日のうちにできたトイレを老人に見せる。
老人は満足そうにうなずいている。
報酬代わりに余った材料を受け取ると、少女たちの家にも同じものを用意しておいた。