5 はじめての狩り
じゃがいもを並べ終わり、甕から|柄杓で水をすくい手を洗い、ぴっぴっと、水気を飛ばす。
と、ここまでで、いつもの俺の仕事は終わりなのだが。
ふむ、と考える。
いつもの日課でいえば、これから、散歩がてら畑に来る害獣を追い払うために、見回り兼、雑草抜きがあるのだけれど…
畑に振り返ってイメージする。
この畑に何も入ってこれないように、できないかな?
ミミズの空間を仕切れたんだから、あれを広げる応用で。
ああ、そうだ、鳥の被害も多いから、天井もつけないとな。でも雨をはじくのは困るから。
網目のような形にしようかな
俺は、自分の腰以上の長さがある落ちていた木の棒をたずさえ、畑を一周その棒で地面に線を描きながら形をイメージする。
どうしようかな。
ぴたっと、線と線をつないで周囲を見回す。
あ、地面の中にモグラだっているじゃないか。
にっくき害獣たちを思い浮かべ自然に俺の顔は挑戦的に口角をあげた。
泥だらけのかじられた野菜を見て悲しむ姉ちゃんはもう見ない。
とん、と棒で地面をつく。
畑の縁から俺の魔力を練り込むように広げていく。
俺の魔力と周囲が一つになっていくように感じる。
ここは、俺の空間
すっと空気が収まったのを感じ、俺は目の前にある結界を指でたたいてみる。
きっと音がでたら、コンコンといい音が鳴るだろう。
念のため、手を結界にそわせながら、一周歩く。
うん。途切れ目もなくきれいにできているな。
俺は得意げな気持ちで全体を見渡す。
ふんふん、と言いながら俺はまた畑を一周、回る。
いや、ほんとによくできた。
棒でぺちぺちたたきながら、もう一周回る。
認めたくないけど認めなければいけない。
この1㎜の隙間もない結界、強力だ。
完璧だな。
俺は天才だな。
まぁそうだろう…
でも、でも、今はそんなことより…
仕方なく足を止めてつぶやく。
「どうやって、中に入ればいいんだろう」
俺すらも畑に入れなくなっていた。
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ふぅぅぅ、と音をたてないように息を吐く。
俺は今、木に登って地面をほっているイノシシを眺めている最中だ。
畑の結界?
そんなものは、当たり前に、取り消した。
とりあえず、またげば超えられる程度の柵として結界を作っておいた。
予定通り、だ…。
まぁ、そんなことより、やっぱり野菜よりも肉だよ。
俺は今、自分の体よりもでかいイノシシを狩ろうとしている。
獣くささが、ここまで匂ってくる迫力の位置だが、イノシシは俺に気づいていない。
鉄壁の匂いガードを俺の周囲に展開しているからな。
慎重に、慎重に。
イノシシの首に狙いをつけて、まずは首と体を離す。
姉ちゃんが、鳥をつぶしていたのを見ていてよかった。
俺は、今までぼんやりと過ごしていたが、見ていたもの全て素通りしていたわけではないのだ。
「よし」
風を切るように発動させた魔力は、イノシシの首を、音もなく作った空間に取り込まれ、一瞬の静止の後、体の方は血を流しながらー
「あっ、まって」
イノシシは自分の頭をそこに残して、走り出す。
『首を落としても、走る時があるから最後まで抑えておかないとね』
姉ちゃんがそう言って、頭のなくなった鳥の首をつかんでいたのを思い出す。
いつも、姉ちゃんの言っていることは正しい。
イノシシのどたどたと走っていた音に驚いたのか森の中はいっせいに、鳥が鳴き、それにつられた獣の声が響き、騒がしくなる。
「あー、どこに行ったのかなぁ」
俺はイノシシを追う為、しおしおと木から降りた。
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優しい風が俺の髪を揺らしていく。
俺は、隣に置いた毛皮をちらと見る。
あれから、すぐにイノシシは見つかった。
その場でさかさまに釣り上げ、血抜きしたイノシシを浮きあがらせて運び、畑に戻ってきた。
歩く俺の姿が疲れたようにみえるのは気のせいだろう。
さっ、まずは毛皮をはぎ取るか…ナイフすらもってないな。
いや、おれにはギフトがあるからと、ちょっと胸をはって動き出す。
毛皮と皮膚のあいだから、じんわりと魔力をいれていき全身にいきわたった後、すぽん、とぬがせるように毛皮をはいだ。
あとは、肉を切り分けていく。
まずは内臓を取り出し、おおまかな部位に切り分ける。
でも、おれは出来る弟だから、姉ちゃんの手間が少ないように一食分は一口大のサイズにする。
ふふ。
毛皮はしかし、獣くさい。
とりあえず、屋根にでも干しておこう。
よし後は、これを運んで…
俺は、意気揚々と家へと歩く。俺の後ろは、毛皮を筆頭に、ひょこひょこと、いくつかの固まりがついてくる。
家に着いた俺は、屋根に上がって、毛皮を干す。
少し高いところから見渡す風景は、ぽつぽつと生える木々が色濃く映え風が吹くたびにざーざーと音をならす。
毛皮の隣に腰を落ち着かせると、疲れが一気にきたように感じた。
そういえば、この体は体力がないんだった。
記憶をさぐってみても、動くといえば畑の周りを歩くくらいだった。
きっと姉ちゃんも少しは運動させようと、俺の手伝いをきめたのだろう。
今日は一気に動きすぎたかな。
眠っていた俺のギフトが目覚めた初日だから、はりきってしまったのかもしれない。
でも、と思う。姉ちゃんは俺が起きるより早く家を出て仕事をしている。
まだまだだ。
今まで寝ていた分、取り返さないと。
のんびりと空をみあげていると、白い鳥がとんでいく。頭のてっぺんに赤い羽根が目印のように生えている鳥。
あれは姉ちゃんが高く売れると言っていた。
俺は思わずその鳥を取り込むように投げ網のイメージで魔力をむけた。
ぼと。
間抜けな音をたてて、その鳥は、目の前に落ちてきた。
鳥は理解できてないみたいに、バタバタと動いている。
ふと、気配をかんじ、道路に目をやると姉ちゃんが見えた。
俺は立ち上がる、姉ちゃんも気づいたみたい。
「ねえちゃーん」
俺は手を振る。
荷車を力強くひく姉ちゃんは疲れもみせずにしゃんと歩いてくる。
そうだ、急いでいるなんてことはない。
もう十分、俺は休んでいた。
遅いくらいだった。
いろいろな思いを振り払うように、大きく手を振り続ける。
「おかえりー」
この心を満たすほくほくして震えているのはなんだろう。
戻ってくる姉ちゃんをみて考える。
「落ちないでよー」
姉ちゃんのかすかな声が聞こえる。
俺は、笑う。
ひとりじゃないって、なんてすごいことなんだろう。
俺を心配してくれる人がいるだなんて、俺を自分より大事に思ってくれる人がいるだなんて信じられない。
この時間がずっと続けばいいのに。
だんだんと近づいてきた姉ちゃんは、突然ギアを変えたスピードで、土ぼこりをたてながら向かってくる。
急に、どうしたんだろう。
なんだか顔も怖い気がする…
俺は不思議に思って、とりあえず屋根から降りることにした。




