王城にて
「ただ眠っておるだけなんです」
シルヴァンは、城の中にある治療棟で対面した父親についてそう説明された。
ひっそりとした城の長い廊下を、呼びに来た騎士に先導され着いた部屋に、一人の老人が待っていた。
魔術師のゲーゲンと名乗った老人は、シルヴァンをテーブルをはさんで左右にある三人掛けのソファに座らせ、自分もまた、同じソファに腰かけた。
正面には一人掛けのソファがおいてあった。
城にある他の豪華絢爛な部屋とは違い、ベージュの落ち着いた色合いでまとめられた。
夜の今は、暗い色しか映していない窓だが、日が昇れば美しい庭園が望めるのだろう。細長い半円形アーチ状の窓が、絵画のような優美さを持ってならんでいて、重厚な書き物机が、その窓を背にして真ん中に置いてあり、その他の家具は少なくがらんとした印象を与えていた。
「治療のギフトを持っている者が検査をしましても正常、とでます。脈だけがただ、低くなっている、それしか見つけられないのです」
ゲーゲンは、目の前のシルヴァンを見る。
「私たちは、呪いの一種だろうと考えました」
「呪い?」
「はい、魔法の痕跡が見当たりませんので、消去法でそう結論づけました」
ゲーゲンは若い、まだ子どもだと言ってもいい年齢の若者に、自分はなんと惨いことを伝えるのだろうと思う。
この老いぼれが変われるものなら、変わりたいとすら思う。
「私たち、魔術師は、呪いを他のものに移すことは可能であると結論付けました。魔法陣により、呪いを騙す手法で移せると、そして、その成功率を上げる為には、似ている人を、つまり血族であればよりよいだろうと」
少し間をあえてシルヴァンは話しだす。
「陛下より頂いた手紙には、父を助けるために命を捨てられるかと書いてありました。もとより、国に身をささげる覚悟はしているのです。父上がそれによって、助かるのでしたら何も言うことはありません」
「お父様が、倒れたのは、近隣諸国を集めた会議の最中でした。どういう意図でお父様が狙われたのか、それとも何かの警告なのか、分からないことだらけの中、お父様が無事な姿を見せたら、相手から何かしら反応があり、そこから尻尾をつかめるのではということと、今、国境を守るフォーレース領が隙を見せるのは危険だろうという考えでこのような形を考えているのですが…」
「分かっております」
ゲーゲンは、むしろ自分の方が動揺しているのに気づいていた。思わず、感情を高ぶらせることなく淡々と話すシルヴァンに聞いてしまう。
「手紙では、詳しいことは書いてないまでも、血のつながりを指名していただけだと思うのですが…」
そう、長子相続の中、普通であればスペアの存在である弟がでてくるはずだったが、フォーレース家からは長男であるシルヴァンが向かっていると、返事が来たのだった。
シルヴァンは、小さく首を横にふりながら言う。
「父上の意識を取り戻したいのは、それが一番、国に影響がないからでしょう…。それと、同じように、いなくなるのは私の方が影響がないのです」
よどみのない静かな返答にゲーゲンは黙るしかなかった。
「呪いを解く方法は、ずっと探し続ける」
そう言って、風を切るように堂々と、部屋に入ってきた男に、二人は立ち上がり、右手を胸につけ頭を下げる。
「いい、このような時に、やめてくれ」
野太い声で、二人の姿勢を制しながら歩いてきた。
「罪のない子どもに頼ることしかできない、無能な王に恭順は必要がない」
正面の空席だったソファに来て、どかりと座った。
「さぁ、座ってくれ、シルヴァン。このようなことになってしまって、本当にすまんな…。他に打つ手がないのだ」
この国の王は言った。




