12 求職
「こちらで働かせてください」
ドリスは、そう言うと頭をさげた。
俺は、隣に座っているドリスの後頭部に顔をむける。
首筋には俺が結んだままの鎖がちらりと見えた。
ボーガンさんは、少しの沈黙の後
「まぁ、まずは頭を上げてください」
と言うけれど、ドリスの姿勢は変わらなかった。
ボーガンさんは、カインさんを確認するかのように見る。
「どんな仕事でもいいのです。力には自信があります」
重ねてドリスが言うと、ボーガンさんは困ったように話し出した。
「薄々、気づいているかもしれませんが、家の経済状況はよくないのです。ポーションに利益が乗せられないのはルート君にお話しした通りなのですが、それ以外でも…」
俺は、空き室だらけの寮を思い出した。
子爵が行商に行くのだって普通じゃないんだろう。
「はっきり申しますと、パウンド商会を潰そうとしている者達がいるのです」
カインさんが、誰とも目を合わせず、まっすぐ前をむいたまま発言した。
「はは、あまり言うと不敬で捕まってしまうかもしれないから、外では言わないでくれよ」
ボーガンさんは、力なく言い、頬を人差し指でかくと、話をつづけた。
「皆さんと、会った時、実は護衛の再就職先探しも兼ねていたのです。家の護衛達は優秀でしてね、文字も計算もできますので、王都から離れれば、護衛としても引く手あまただろうし、婿としても優秀なのではと…」
「ボーガン様は、雇い主が太鼓判をその場でおせば話がはやいだろうと言ってついていったのです」
カインさんは、さっきと同じ姿勢で発言する。
「そういうわけで、商売を縮小している最中でしてね…、あっ泊める場所はいくらでもあるので、そこは気にしないでくださいね」
俺と姉ちゃんが、そわそわしたのに気づいたのか、ボーガンさんは付け足すようにそう言う。
「ですが、雇うとなると…」
「っ無給でいいのです。仕事はなんでもしますので、ここにいさせてください……シルヴァン様のそばに、いたいのです」
俺は、自分のつま先を見た。
気づいていた。
ドリスが一人で来たってことは、もう行ってしまわれたんだろう。
人質のようなかたちって結局どういうことなんだろう。
「城の近くにいたいってことですね…」
ボーガンさんは、つぶやくようにそう言うと、ガラリと口調変え
「うちには、いくらでも泊まっていいんですよ。なんせ、空いている部屋はいくらでもあるんですからね」
と明るく言う。
「ありがとうございます」
ドリスは、一段深く、頭を下げる。
「さっ、顔をあげて、皆さんも立ち上がって、もう夕食ができているんじゃないですかね。ご飯の時間に遅れると、タバサは怖いですからね。私も今日は、食べにいきましょう」
そう言ってボーガンさんは立ち上がった。
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そして、皆で食堂に行った。
昨日とは違い、品数は少なかった。俺たちの為に昨日はわざわざ、ご馳走をつくってくれたんだろうと気づき、申し訳なく思った。
朝と違って、旅で一緒だった護衛達もいて、賑やかだった。
ボーガン様は、軽くそこでドリスを紹介して、食事を終えた。
その後、ドリスはトーマスに寮を案内され、俺はお風呂をすませ、部屋に戻り、姉ちゃんに、おやすみの挨拶をして、ベッドに入り目をつぶっている。
——かちゃり
姉ちゃんも、もう寝るのだろう、窓を閉める音が聞こえた。
俺は、たっぷり時間をあけてから、そっと起き上がる。
静かに窓辺まで近づくと、小さく窓を開けた。




