11 帰りは
話が終わると、出口までエルズさんが送ってくれた。
「また、詳しいことは、後で使いを出すわ。パウンド商会に行けばいいのかしら?」
びっくりしたことに、ボーガンさんは貴族で、しかも子爵だった。
泊まっている場所を聞かれ、答えると、エルズさんが教えてくれた。
最後に通った村と湖の周辺が領地だという。
小さい領地になるけれど王都からも近く通り道でもあるので、とても安定していていい土地だという。
「はい。もし移動していても、分かるようにしておきます」
「分かったわ」
俺は、少し考えてエルズさんへお願いを口に出す。
「できれば、入学する前に、基本的なことを知りたいです。本や教科書を読んでおきたいのですが…」
色々な不安を一つづつでもつぶしていければと思った。
学校がどういうところかも、はっきり分かっていない今、自分の力で知れることは知っておきたい。
「ええ、もちろんよ。教科書はもう決まっているし、私のおすすめの本も、すぐに用意するわね」
俺は、もごもごとお礼を言って頭を下げた。
エルズさんも、その隣の護衛の人の微笑みも、こそばゆかった。
「さ、お迎えの人たちがきているようよ」
お迎え?
そう言われ、柵の方を振り向く。
「あ、ボーガンさんだ…」
俺は、柵の向こうで、一頭の馬をつれてたたずむボーガンさんを見たのだった。
―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—
「そうでしたか、連れていかれたと聞いて、最悪の事態も考えてしまい、私ひとりで来てしまいましたが、良い方向に進んだようですね」
ボーガンさんは、俺の馬に乗りながら、そう話してくれた。
「すみません、心配かけてしまって」
俺はパラに乗り、馬と並走しながら謝る。
パラは、俺に気を使ってくれているのか、それとも番を気にしているのかは分からないけれど、とても乗り心地がよかった。
ボーガンさんは、首を横にふり
「どうなるか、少し心配だったので、私一人の迎えになってしまいました」
庶民が来たことで、反抗の意志ありとみられるとその人達の身も危なくなるからと言う。
「ありがとうございます」
俺は、ボーガンさんを見て安心したように笑う。
「正直、帰り道が分からなかったんです」
そういうと、ボーガンさんも笑ってくれた。
「商会の方へ、俺への連絡がくると思うんですが、勝手に連絡先にしてしまって、すみません」
「いいんですよ。伝えてありますように、いつまでいてくれて構わないんですから」
——フンフンフン
馬は、ボーガンさんの言葉が分かっているように、鼻息を出しながら首を縦に動かす。
きっと昨日は、居心地がよかったんだろう
「それにしても、立派な鳥ですね~」
あらためてボーガンさんがそう言うと
『立派だなんて、分かってる男じゃないの、今まで人間どもは、でかいだの、大きいだのの言葉しか知らないのかと思ってたよ』
パラの声が聞こえてきた。
俺の前に、羽毛に埋まるようにちんまり座っているメディンも嬉しそうに体を揺らす。
「あっ!すみません、パラと、メディンまで、お世話になってしまうんですが…」
俺は申し訳なさで、尻つぼみになりながら今気づいたことを言う。
鳥たちまで厄介になるだなんて、しかも馬までいる…。
これは、家を探すにしても難しくなってしまう。
『ボーガンさんのおかげで暮らせるんだからな、迷惑かけないようにしてくれよ』
俺は鳥たちに言う。
それくらいは、分かっているよとパラからは、少し不機嫌そうな気持が返ってきたが、メディンは
『うん分かったよ』
と、かわいらしく返事がきたので大丈夫だろう。
「いいんですよ、土地は無駄に広いんです…。ですがパラさんとメディさんの住む場所が他の馬と一緒というわけにもいかないですよね…」
ボーガンさんは、少し考えるとすぐに明るい声をだす
「ああ、いい場所があった!お菓子のお店にしましょう」
うんうんと、うなずきながら言う。
「お菓子のお店?」
「えぇ、きっとこれも神子様の思し召しかもしれませんね」
ボーガンさんは、優しそうな、でも少し寂しそうに言うのだった。
「おや、店の外にでているな」
そう言われ、俺は、ボーガンさんから視線を外し、前を見るといつの間にか商会の建物が見えている。
「なにがあるか分からないから、店の中にいるように言ったのに困ったものです」
確かに、店の正面からは外れすぎな場所を意味なくホウキをもっているトーマスの姿が目に入り、その後ろにはマリーがゴミも落ちていないのに塵取りを手に持ってついている。
俺たちに気づくと、トーマスとマリーは急いで店に戻ると、すぐに店から、カインさんと、姉ちゃんと…
「ドリス?」
姉ちゃんと一緒に出てきたドリスに不思議に思いながらも、とりあえず近づきすぎだと指摘しなければと思った。
「ご無事でなによりです」
カインさんは、ボーガンさんと俺に、ほっとしたような顔で迎えてくれた。
「心配かけたね」
ボーガンさんは、馬から意外にも身軽に降りると、トーマスに馬の手綱を渡す。
「この子も休憩なく、頑張りましたからね、ご褒美でもあげてくださいね」
そう言うと、姉ちゃんに向き合う。
「さぁ、話はいい方へ向かったようです。ルート君の話を聞いてあげてくださいね。いろいろな事は私がカバーしますので、心配無用です」
俺にも言い聞かせるように、そう言ってくれた。
「まずは、お茶でも飲みましょう。喉がカラカラです。カインお願いしますよ」
朗らかにそう続けると、ボーガンさんは、俺たちを店の中へみちびくのだった。
「そういうわけで、ルート君には、お菓子のお店に住んでもらおうと思うんです」
ボーガンさんは、俺が姉ちゃんへの説明を終えると、そう言った。
「お菓子のお店?」
姉ちゃんも、さっきの俺と同じような返事をする。
それに、ボーガンさんは小さく笑うと
「見ていただいた方がはやいと、思いますので」
と、窓から薄暗くなった外を見ると
「今日はもう遅いので、明日にしましょう。そして…」
少し困ったように、言いよどむと
「ドリス様の用件をうかがってもいいでしょうか?」
と、黙って座っていたドリスへ、遠慮がちに言った。




