9 訪問客
俺は、立ち上がり、鳥に向かう。
鳥は、足をたたみ俺に顔を寄せる。
自分の背丈より、倍以上ある場所にある桃色の毛の中にある黒目は、最初に会った時のことを思い出させる。
見上げた青い空に、のんびりと飛んでいた鳥。
『俺のせいでお前を変えてしまったというのに』
槍を突きつけれれてなお、恐れられ、飛ぶことですら恐怖を与えてしまう姿になった鳥。
『人間となんて契約したら、自由じゃなくなるんじゃないか?』
かわいそうな鳥。
俺は鳥の頬に手をのばす。
いがいにも、やわらかい手触りに驚き、そのまま両手を首にまわし自分の顔をうめた。
変えることは、罪だろうか。
どこかで俺はずっと、考えていたのかもしれない。
ぼんやりとした自分だけの世界から、急に意志がはっきりしたかと思えばギフトが現れ、今までの自分とはちがう。
盗賊を殺したとしても、なんの感慨もうかばなかった。
これは、本当の自分なんだろうか。
少しの恐怖を、姉ちゃんにすがることで見ないふりをしていた。
それと同じことを、この鳥にしてしまったんじゃないだろうか。
鳥は、俺を慰めるように、あご下で俺の頭をなでるように動かした。
俺は、顔を上げ鳥の目を見上げて言う。
「契約っていうのは、よく分からないけど、一緒にいようか?」
『人間って、簡単なことを、ずいぶん難しく考えるんだね』
突然、声が頭に響く。
俺は、身じろぎ手を離す。
鳥は、さっきと同じ目のまま俺を見ている。
『前の姿と、今の姿がちがうって、当たり前のことをどうしてそんなに考えるんだろう』
「お前の声か?」
『今度は、声が聞こえるようになったからって悩むのかい?』
笑うように鳥は、体を震わせる。
『テーブルの上にある食べ物も、なんで茶色いんだろうって、草はなんで緑色なんだろうって考えはじめるのかな?』
鳥は、正面を向き辺りを見回すように顔を動かす。
『体が大きくなっていくのは、そりゃ最初は疑問に思ったけれど。でも、同じだろう。日が昇れば目を開けて翼を動かす。日が沈めば翼をたたんで目を閉じる。なんのちがいもないよ』
「……」
『狩はやりやすくなった面もあるし、やりにくくなった面もある。でも、強くなって悩むことなんてないね。だって強くなりたいだなんて、みんな思っているよ。小さい鳥の姿の時だって、グリズリーより強くなりたいって思ってたさ。それで強くなったからって、なんで悩むんだ?ーあぁ、そうだね。ここに来た理由、なんであんたを追いかけてきたのか』
鳥は、自分の背を見るように首を後ろに動かす。
俺も、一緒に見ると、鳥の羽の中から、ぴょこんと小さい鳥が頭を上げた。
この鳥を見た後は、ずいぶんかわいらしいと思わざるおえなかった。
大きさ的には普通の鳥だったが、なんせこの鳥の背に座っているのを見れば、生まれたての鳥のよう見える。
『私の番さ、かわいいだろう』
首を少しかしげ、紹介された鳥は俺を見た。
トサカの部分の羽根は、黄色と青の色を持っていて、グラデーションの桃色は、濃く鮮やかさがより際立っていた。
自然界ではオスの方が着飾ってメスに求婚すると言う話を思いだした。
「鳥、お前、メスだったんだな」
何を、当たり前のことを言っているんだと言う風に、あきれた感じを出しながら、鳥は言う。
『とりあえず、呼び名を付けてくれないかね。鳥って、私も鳥だし、番だって鳥だからね』
「うん、それもそうだね」
俺は、考える。
「番の名前も、つけていいのかな?」
『うーん、そう聞かれると変な感じがするねぇ。今まで、必要を感じたことがなかったからね。番は番、私は、私で事足りたからね』
鳥は、また、背に乗っている鳥を振り向いた。
「どっちでもいいって言っているね。私の番は小さなことは気にしないんだ。さすがだろう」
と胸を張り、誇らしそうに言うのだった。
早速、くさされているような気がした…。
二人の名前かぁ…。
ペアっぽいのがいいだろうな。
うーん。
「お前たちは、人間にパラメディンって呼ばれているんだ。聖書の中に、神様が降り立つとき一緒に2羽、お供したって書かれているんだ」
黒い目は、静かに俺を見つめている。
「お前が、パラで、番の方はメディン、二人でパラメディン、神のつかい。どうかな?」
『二人で、一つの名前だね。うん、いいね、気に入ったよ』
そう言うと、メディンとも何か俺とつながったような感触を感じた。
『さ、やることはやったから、もうここから出ようじゃないか。さっきから、あの犬が私の番を食べてしまうんじゃないかと思っててね』
「あ、そうなの?嫉妬じゃなかったのか?」
パラは、それを聞くと、不思議そうに首をかしげる。
その姿は、さっきのメディンの姿とよく似ていた。
「契約、できたようね」
エルズさんが、声をかけてきて、俺は振り向く。
いつの間にか、テーブルの横に立っていた。
「はい。たぶん」
「ほほほほ、名前を付けたってことは、お互いをみとめたってことよ」
エルズさんは、俺に近づいてくる。
「その小さいお客様は、どなたなのかしら?」
「パラの、番だそうです」
「あら、そうなの!仲がいいわねー。アツアツだわ~」
アツアツ?どういう意味だろう?
「…エルズ様、あまり若い子は、そのような言葉は知らないかと…」
「あら、古かったかしら」
「…えぇ、まぁ、年がばれるかと…」
この騎士、言葉遣いは丁寧だけど、割合はっきりと言いすぎなんじゃ…。
「でも、パラちゃんは喜んでいるみたいよ」
そう言われ、俺は、パラを見上げると、確かに首がくねくねと動いている。
『あつあつ。番と一緒にいると確かに体が温かくなっていたんだ。そういうのが、仲がいいってことなんだな、ふふ、分かっていたけれど嬉しいものだ』
俺は、背に乗っているメディンもみるが、そっちの方は目をぱちぱちとまたたかせているだけだった。
「学校はどうするか決めたのかしら?急いで決めなくてもいいんだけれど、ちょうど、今だったら、あたらしい学年がはじまるのに間に合うわ」
俺は、自分を落ち着かせるように、息を鼻から吸うと大きく吐く。
「行きます。行ってみたいです」
どうなるかは、分からないけれど、うじうじと考えるのはやめだ。
全ての事がなにもかも、うまくできるわけないのだ。
先に何があるかは、誰にも分からないのだから。
俺は、今この瞬間、自分で考えた道をえらぼう。




