4 朝食
朝起きたら、思ったとおり部屋の窓から、王都の景色が、見えた。
商会は高台にあるようで、想像以上に王都の景色が見渡せる。
赤茶色で揃えられた家々の屋根は、朝日に照らされていき、教会の塔は、高くそびえたつ。
山を城塞として利用するように建てられた城は、遠近が不自然に思えてくるほど巨大だ。
しかし俺は、凛とした朝の景色とは裏腹に、気持ちが沈んでいる。
姉ちゃんは、俺を学校にあげるらしい。
部屋に戻ってきてから、詳しく説明された。
俺の力を、きちんと管理できるためにも、勉強したほうがいいと。
どうせ地元にいたとしても、元気になってるんだから、学校にはいかなきゃいけなかったでしょう、と。
えぇー。
俺の計画…。
「姉ちゃんは、その間、何してるの?」
「そうねー、王都で仕事を探してもいいし、冒険者として働らくのもいいかもしれないな」
「学校って、お金がかかるだろう」
「お金って、あんたが言うとは…」
俺は、ビチルからいただいた数々の物を思い出し、ごまかすように笑う。
「でも、入学検査とかあったら、かえって知られたくないことまで、知られてしまうかも」
心配そうに、言うと
「そうよねー」と、姉ちゃんは悩みだす。
ふふ。
うそだ。ごまかし方なんて、いくらでも思いつく。
これで、あきらめてくれればいいんだけど。
「でも、どちらにしろ学校には行かなきゃいけないわ」
だめだった。
「まぁ、どういう学校がいいか、考えておきなさいよ。商業学校とか、いろんな学校はあるんだし」
「はぁい」
俺は、考えなきゃいけないらしい。
とりあえず、着替えるかと、寝間着をぬいだ。
姉ちゃんは、もう部屋にいなかった。
目覚める前に、「起きて,走りにいくわよ」と聞こえたような気がしたが、夢だろう。
俺は、顔でも洗おうと下に降りる。
朝食は、七の鐘が鳴る頃に、食堂に用意してあるから、それくらいに行って各々食べるそうだ。八の鐘が鳴る頃には下げられるから、気を付けてとのことだ。
ボーガンさんの分は、部屋に持っいっているそうだが、そもそも食べないこともあるらしく、ダメよねーと、タバサさんは、小言を言っていた。
ちょうど、顔を洗っていると、七の鐘が鳴ったので、俺はおずおずと、食堂へ入る。
昨日帰ってきた人たちは、今日お休みをもらっていると聞いた。ゆっくりしているのだろう、食堂は静かだった。
「おはようございます」
俺は、厨房にむかい挨拶すると、
「おはよう」
と恰幅のいい、男の人が返してくれる。
ちょうど厨房で手伝いをしていたトーマスが、タバサさんの、旦那さんであると教えてくれ、そのまま食堂に出てきて、一緒に食べようと、誘われた。
厨房は、食堂とをカウンターで分けており、その上にパンと、サラダ、焼いたベーコン、ゆで卵、牛乳が、乗せられており、自由に取るようだ。
「パンは、多くて二個までなんだ、もっと食べたい人は、事前に言っておかないと怒らられる」
そう言って、トーマスはパンを二個取る。俺は、一個にした。
「ゆで卵は一個、サラダは、皿に盛れるくらいを目安にして、それ以上食べたかったら、畑から自分で採ってくる。そして、ベーコンは、絶対に一枚だ。それ以上、食べた人は…」
「それ以上、食べた人は?」
「次の日には、姿を消している」
「あは……」
冗談だと思い、笑いそうになってトーマスを見るが、真剣な顔をしてベーコンを取っているから、笑いをひっこめる。
気を付けなくては…。
トーマスは、俺の分も牛乳をついでくれた。
「これも、うちで飼っているヤギから取っているんだ」
「なんでも、作っているんだね」
「うん、会長も時々、うちは商会じゃなくて農場だな、っておっしゃるよ。もともと、農場から始まったみたいだしね」
トーマスは、カウンター近くの席を案内してくれる。
「食事が終わったら、自分が使った食器を洗うんだ。離れた場所に座って、行ったりきたりも面倒だから、なるべく厨房の近くに座っているよ」
席に座ると、トーマスと俺は、食前のお祈りをする。
「さ、食べよう」
食べている間に、いろいろな事を話した。
トーマスとマリーは孤児で、二年前にここに引き取られた話、ここでは、読み書き計算を、時間の空いている人が教えてくれることになっていて、ありがたい話、狂暴なヤギがいる話。
「ルートは、今日なにか予定はあるの?」
「ないと思う」
きっと、今日一日くらいは、ゆっくりしていていいはずだ。
「ベリー摘みする?」
「したい!」
「狂暴なヤギ見たい?」
「見たい!」
「そうか、よかっ」
その時、トーマスの隣に、勢いよくトレーが置かれた。
「あんた、そんな事、言ってっ。手伝ってもらうつもりでしょ!」
マリーだった。
トーマスは、口を閉じる。
「それに、お客様に、その言葉遣いはなに?」
怒っている。姉ちゃん並みにこわい。
「いや、昨日、タバサさんが、ベリー摘み体験してみるかって聞いてたからさ」
「あくまでも、体験でしょ。それに、なんで、ヤギまででてくるの」
俺は、話に入っていけるわけもなく、牛乳を、ごくりと飲む。
トーマスは、しょぼんと下をむく。
「だって、今日、休みになっている人多くて」
「それは、ルート様には関係ないでしょうっ」
「さ、様は、つけなくていいですよ」
小声で、言ったが聞こえただろうか…。
「様、つけなくていいって」
「今、その話してないでしょう!」
余計、ヒートアップさせてしまう、きっかけになってしまった。
トーマスが恨めしそうな顔で見てくる。
いや、今のは俺、わるくないよな。俺はまた、牛乳を飲んだ。
その後、怒涛の会話の中の一瞬の間をつき、俺はなにか、手伝っていた方が、気が楽ですと、伝えた。
同じ年なんだし、俺とも、トーマスみたいに話してほしいです。とも伝え、トーマスは、うんうん、うなずいていた。
俺は、えへへと、笑って見せたが、マリーは、腹立だしさをぶつけるように、トーマスのベーコンを取ると、食べた。
「あっ」
と、声が出たのは、トーマスだったか、俺だったか。




