5 牧場
「これ、ヤギ?」
俺は、狂暴なヤギを見に来ていた。
…狂暴か、どうかよりも俺は、そのでかさに、驚いている。
「ヤギってさ、腰くらいの高さだと思っていたんだけど」
「あ、突進してくるから、気を付けてね」
トーマスは、なんてことないように言ってくるが、このヤギに突進されたら、確実にケガするよ。
俺は、柵から、少し離れた。
「馬よりは小さいけど…」
俺の肩くらいの、大きさはあるヤギ…。
それが、10頭は、放牧されていた。
角もなんだか大きいし、ヤギって、なんか、もっとかわいらしいと思うんだけど。
「昔、このヤギを育てた人が、すごい魔力を持っていたらしくて、それが影響を与えたって言われている。家のヤギ、丈夫で元気だから、他の牧場から引く手あまたなんだ。でも、他の牧場へ行って、二代くらいたつと、すっかり普通のヤギしか生まれなくなるみたい。それでもいいって、いうから売るけれどね。逆に、別の所からヤギを連れてきて家のヤギと一緒に育てると、また、大きくなっていくんだよね」
縦長の瞳孔でヤギは、俺を観察するように見ていた。
トーマスは、俺の衝撃に気づいていないようで、そのまま話し続ける。
「放牧している間に、厩舎を掃除するんだ」
そう言って、入っていくトーマスについていく
「朝の、乳しぼりは終わったから、今は、掃除だけする」
そういって、床にしいてある藁を集めだす。俺も、手伝おうとするけれど、そもそも枝ほうきが、重くて持てなかった。
手を止めずにトーマスは、説明する。
「この藁を、外の一か所にまとめて捨てるんだ。肥料をつくる材料さ」
「けっこう、広いね」
「うん。仲が悪い奴とか、部屋を分けなきゃいけなかったりするからね」
そして、気まずそうに手を止める。
「マリーが怒ってたこと、気にしないでくれよ」
「え、別になんとも思ってないよ。仲がいいなぁ、とは思ったけれど」
そう言うと、気を持ち直したように、ホウキを動かし、明るく話し始める。
「マリーは、はじめて直接、会長に、仕事をお願いされて喜んでたんだ。きちんとやろうって、はりきってて…。俺は、会長に、年も同じだから、仲良くなれるといいですね、って言われてさ。それにルートが大人の中、居心地わるそうに見えたから、お客様扱いしない方がいいかなって…。ま、ちょっとは手伝ってもらおうかなとは思ってたけど」
そう言って、笑う。
「そんな…俺は、たまたま通りかかった馬車に乗ってただけで、貴族でもなんでもないんだから、気を使われる方が困る…宿とるのにお金もかかるし、泊まらせてもらってるだけで、ありがたいんだ」
俺は、小さめのほうきをみつけ、見よう見まねで厩舎を掃く。
「俺たちが孤児だっていう話はしただろ、10歳の儀式で二人ともいいギフトは授からなかったんだ。そして、儀式が終わったら働き先を探さなきゃいけない。運がよくて、王都だし、仕事がなかったら外に出て行かなきゃいけない。きっと離れ離れになるって思ってたけど、会長が、学もなんにもない俺たちを、引き取ってくれたんだ、しかも、二人まとめて。だから、そんな商会長に直々に頼まれたものだから、完璧にしようと思ってたところに、俺が水を差してしまった感じなんだよな」
「他の人には、マリーが正しいと思う。俺は、客というより居候みたいなかんじだから。っていうか、働いていないぶん、迷惑っていうか…」
俺は、急に自分がちっぽけに思えた。
姉ちゃんが大変な時に、自分だけの世界に閉じこもっていたということが、目の前につきつけられた気がした。
「ルートは、学校に入ったら、ここから出て行ってしまうのか?会長は、いつまでもいていいって言ってくださったんだろう」
「うん…まだ分からないんだ」
規則正しく、ホウキの掃く音は響く。
分からない、俺は何をしたいんだろう。
姉ちゃんとずっと一緒にいて、守ることだけを考えていた。
ギフトでそれができるようになったって思っていた。
シルヴァン様は、それだけじゃ足りないように言っていた。
姉ちゃんも、俺とは離れて、別の事をしようとしている。
俺は、どうしたらいいんだろう。
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「筋肉を、つけるのよ」
俺は、頭上からふってきた声に顔を上げた。
ヤギの世話の後、姉ちゃんとマリーも合流し、ベリー摘みにきていた。
低い高さに揃えられたベリーの木は、きれいに5列並んでいた。
鈴なりになった色づいたベリーを、最初は楽しく摘んでいたんだけど、中腰の姿勢がつらく、座り込むと、頭上から覗き込んだ姉ちゃんは、そう俺に言うのだった。
「…う、ん、」
俺は返事にもならない、声を出す。
「思ったより、ベリーがなっていたから、ルートが疲れるのも仕方ないよ」
トーマスが、かばうように言ってくれるが、マリーはペースが変わらないまま
黙々と作業している。
「うちで、食べきれないから、タバサさんに売りに行くように言われるかもね。ジャムは作ったばかりで、たくさんあるんだ」
トーマスは、話しながらも手は止めない。
「ルートも、一緒に行く?あ、でも疲れてるかな」
トーマス、意外と気づかってくれる奴だ。
俺も、お尻をつけながらだが、目の前にある実くらいは取りながら言う。
「行きたいな」
王都にきたんだ、少しくらいは興味がある。
俺は気合を入れて立ち上がり、隣のベリーの列に行く。
姉ちゃんの目が少し、気になったけれど、俺は、ゆっくりベリーの木の間を歩く。目についた実を、収納によって収穫していく。
さりげなく、かごに入れておけば大丈夫だろう。
体力温存だ。
姉ちゃんの目が離れると、俺は、自分の体を誰に見られても分からないくらいに浮かしながら作業した。




