3 食卓
「時間があったら、私がケーキを作りたかったんんですがね」
そう、ボーガンさんは、食卓に座ると言った。
厨房のそばにあるこの部屋は、4脚の椅子が置いてある丸テーブルを中心においてあった。
もう、すでにサラダやパンは用意され、温かい食べ物は、食卓に座ったみんながお祈りを終えると、運ばれてきた。
給仕をしてくれるのは、マリーとトーマスと、かっぷくのいい女性だった。
「タバサの作る、ご飯は、とても美味しいんですよ」
「愛情をたっぷり、こめていますからね、その分おいしくなっているんですよ」
ちょうどその時、俺の為に給仕していた、タバサと呼ばれた女性は、たくさん食べてくださいね、と続ける。
かしこまった席じゃなくて、ほっとする。
最初、ボーガンさんと一緒の夕食の手筈が整っていると言われた時、やんわりと断りをいれたけれど、マリーは、うまくかわし、結局、受けることになったのだ。
意外と押しが強い…。
食卓に座っているのは、俺と姉ちゃんとボーガンさん、それと、ボーガンさんの秘書だという、カインさんだ。
ボーガンさんのお父さんは、病に臥せっており、いつも部屋で食事をとっているらしい。
カインさんは、白髪のほっそりとした体つきの、頭のよさそうなおじさんだ。
俺は、護衛達と一緒にご飯を食べることになるのだろうかと、少し恐々していたが、護衛達は別の部屋らしく安心する。
俺は、煮込み料理に入ったゴロゴロとした肉をフォークでさす。ナイフもいらないくらいに、分けれたそれを、一口大にして、ぱくりと口に入れる。
強い肉の味を保ちながらもスープのうまみがぎゅっと凝縮されている。
「おっ、おいしいー」
俺が小さくつぶやくと、そうでしょう、そうでしょうというように、ボーガンさんとタバサは、小刻みにうなずく。
「さあさ、そのお皿の中の野菜も、全て私が作ったんですよ、ぜひ食べてくださいね」
そう言って、少なくなっていた俺の水をタバサはつぐ。
ここは、商会の本店兼、倉庫兼、畑となっているらしい。
「王都がこんなに栄える前から、ここに商いを行っていたおかげで、土地だけは広いのです。薬草を作っている関係で、畑をつくっていましたらね、いつの間にやら、野菜や果樹を作り出していました。自分たちの食べる分くらいにおさめていますが…。でも、ここは中心地からは離れているので、そこは、城下町に支店を置いて対処しているんです」
ボーガンさんは説明するように言う。
「城下町の華やかさには、ほど遠いですが、私には、ここの方が合っています」
「坊ちゃん、良ければ時間がある時にでも、トーマスに案内させましょうか?今だったら、ベリー摘みも楽しめるかもしれませんよ」
俺は、姉ちゃんの顔を見る。
「よろしいんですか?」
「えぇ、もちろんですよ」
和気あいあいと、話は進む。
「摘んだベリーでタルトを作ろうかな」
そう、ボーガンさんが楽し気に言ったけれど、すぐにカインさんが
「そのような、時間はありませんよ」
と、ぴしゃりと言う。
にこやかな表情だけれど、少し部屋の温度が下がった気がしたのは気のせいだろうか。
「そ、そうだった、私は、仕事をまずは片付けなければね」
と、ボーガンさんは、ナイフとフォークをせわしなく動かす。
楽しい食事だった。
お腹は満たされ、俺たちのことを、みんな歓迎してくれているのが分かる。
ボーガンさんに、会えて本当に運がよかった。
俺は、おいしい料理を、ぱくぱくと食べながら思う。水だって柑橘の輪切りが浮いているんだ。こんなおしゃれな水を飲むのは初めてだ。
「そういえば、王都でなにか予定はあるのかな?それともすぐに出立してしまうのかい?」
ボーガンさんは、明るい話題に変えるように話し出した。
「ルート君と話していた、運送協会の紹介状は、いま作っているところだよ」
姉ちゃんには、紹介状の件は話していなかったから、驚いたように、目を見開いて俺を見る。
「そんなことまで、お願いしていただなんて、申し訳ありません」
姉ちゃんは、カラトリーを置くと、謝る。
俺も、これは、まずかったかなと思い、しおらしくして同じようにしておく。
「ああ、そんな風にしないでください。こちらから言った話なんです、さ、顔をあげてくださいませ。料理を冷めて食べさせたなんてなったら、私がタバサに怒られます」
俺は、刺すような視線を横から感じたが、組んでいる指を見て、気づかないふりをしておく。
まったくもう、と小声がきこえてきたが、姉ちゃんは、俺から視線を外してくれたらしい。
ふぅー。
ひと安心。
俺は、食事を再開する。
「ルート君は、私に会えて、運がよかったと、言ってくれますがね。本当に運がよかったのは、私たちの方だと思いますよ」
そう、ボーガンさんは、にこりと笑う。
けれど、姉ちゃんは、神妙な顔で話し出す。
「実は、ルートを王都の学校に入れたいと思っております」
えぇっ!
のどが詰まるかと、思った。
「…わざわざ、王都の学校と言うと…」
俺は、口の中で、かんでいる肉を飲み込むか、まだ味わうかで葛藤する。
そんなの初耳だ。
「はい、魔術学校に入学できればと」
魔術学校の、名前自体も初めて聞いた俺は、ますます驚いた。




