幸運な一族
幸運な一族
パウンド家は、そうずっと呼ばれていた。
船をだせば、嵐を避け帰ってき、畑を作れば天候をも知っていたかのように飢饉を回避する。
貴族ながら商会を運営しているせいか、馬鹿にされたニュアンスを含まれている時もあるが、運だけで生き残っていると、影で、または冗談のように面と向かって言われているのは事実だ。
なにか秘密でもあるのかと探りをいれてくる人も多い。
それは、そうだろう。代をたどってもパッとしないギフトが、儀式で告げられているのは、ちょっと調べればわかる。
しかし、もちろん、秘密はあった。
家長にしか存在を明かされない、予言を書き留めた本があった。
しかし、予言をした人物は、血族ではない。
その人は、ある日、ご先祖様が、粉ひきをする傍ら、年に一度の楽しみとして、焼き菓子をつくっていると、その匂いにつられたかのように、現れたそうだ。
「これは、うまいな、もっと食べさせろ」と
ご先祖様は、ずうずうしい客に戸惑った。
食べさせろと、年に一度の楽しみを、勝手に家に入って奪っている。
白い布を巻き付けただけの服装に、足は素足である。この辺りは、この家以外、なにもない辺鄙な場所だった。
ここまで、どうやってきたのだろう。
しかし、そんなことは全部後で思いついたこと。
ご先祖様は、自分の楽しみを奪った人物の手を、容赦なく叩いた。
その人物は、手をはたいただけだというのに、気絶するように倒れたらしい。
ご先祖様は、それを見たが、とくに慌てることもなく、そのままお菓子作りを続ける。
薪で作っているから、そんなことに構う余裕はなかったと、後々言っていたそうだ。
すべて、作り終え、振り向くとまだ、その人物は床に倒れたままだった。
ご先祖様は、仕方なく自分の寝床に寝せると、少し、考えてから、畑の世話をしに家を出て行った。
目が覚めた、その人物は、ご先祖様が、畑で作業をしている所に、またきたらしい。
「さっきのは、どこへやったのだ」
やっぱりな、とご先祖様は、布をかぶせた甕の中に、焼き菓子を入れ持ち運んできてよかったと思ったという。
「なんで、おまえに食べさせなきゃならんのだ」
クワで畑を耕しながら言ったという。
「はたらかざるもの、食うべからずだ」
ご先祖様は、腹が立っていた。なんせ、最初に焼いて冷ましておいた、焼き菓子を全て食べられていたからだ。
「はたらかざるもの…」
ご先祖様は、クワを振り続ける。貴重な砂糖を食べられたのが悔しくて仕方なくて、ちょっと泣いていていたらしい。
その人物は、何を思ったか、その辺に落ちていた枝で畑でもない場所を、真似するかのように掘り出す。
ご先祖様は、ほっといた。
これでよいのかのー、とちらちら見ながらやっている姿を見て、ほだされ…なかったらしい。
食べ物の恨みはこわい、パウンド家家訓、その一である。
「いいかげん、帰れ」
そう言ったが、もじもじするかのように、どう帰っていいか分からないと言う。
じゃぁ、どうやってきたんだと聞けば、焼き菓子の匂いにつられてきたという。
「家には、余分なものを食べさせる余力はないよ」
そう言ったが、困ったように、たたずむだけだった。
仕方なく、一緒に暮らすことにしたそうだ。
暮らすと言うか、ほっといたら住み着いたというのが正解らしいが。
まぁ、お菓子の問題以外は、小食だったため、まぁいいかと、思ったらしい。
その者には、レモンと言う名を付けた。
たたずんだ隣にレモンの木があったからだ。
レモンは、ご先祖様の真似をするのだが、ことごとく役に立たなかった。
手を、はたいただけで気絶するだけあって、力も弱い。
どうしたものかと思っていたが、ある日、いつものように作業していると
「ここは、崩れるよ」
と突然、言う。
「全部、なくなってしまう」
というのだ。
ばかなことを言っているなと、思ったが、あまりにも悲しそうにいうから、
「じゃぁ、どこへ行けばいいっていうんだ」
と聞いた。すると、話を聞いてもらって安心したのか
「私が、教える」
と言う。
ご先祖様は、何年も、一人で暮らしていたせいか、それでもいいかと思ったらしい。
それで、悪い方向へ向かうことと、この場所で一人、繰り返しのように生きていく。どちらも同じなんじゃないかと思ったという。
早速、二人は荷造りを始めた。と、いってもやっぱり、レモンは、役にたたなかった。とはいえ、もともと一人で暮らしていただけだ、すぐに支度は終わった。
夫婦のヤギの背に、毛布や食料をのせ、自分は、調理器具などを背負う。
レモンは、手ぶらだ。
荷物なんて背負ったら、すぐにつぶれてしまい、かえって手間がかかると思ったからだ。
ニワトリなどは、連れて行くのも大変かと、悩んで山に放すことにしたが、不思議にも後を歩いて着いてくる。
のんきな一行が出来上がった。
一行は、歩いた、坂を下り、山を登り、進んだ。
レモンは、いつの間にやら、馬に乗りだした。
一体どこから、もってきたんだと聞いても
「歩くのは、疲れるんだよな」
と、答えになっていない返事が返ってくる。
悪いことをしたんじゃないかと思ったが、まぁいいかと、そのまま自分も馬に乗って進む。
家訓である、なるべく、いいことをする。の、なるべくは、ここからきていると私はふんでいる。
暗くなれば眠り、朝日が昇れば歩き出す。川があれば魚を取り、なんの、トラブルもなく進んだ。
「ここで、しばらく休もう」
そう、レモンが言ったのは、洞窟の前だった。
近くには、岩から流れてくる清水がたまっているようなような水場もあり過ごしやすそうだ。
中をのぞくと、落ち葉や、木の枝などはあったが、カビくさい匂いも感じなかったので、過ごしやすそうかと思い、うなずく。
早速、ありあわせの掃除道具で、床をきれいにする。
そこにあった、落ち葉も、枝も、火をつけるのにちょうどよい材料となって、かえってよかった。
ヤギたちは、雨風をしのげそうな、岩がせりだすように出ている場所があり、そこに置くことにした。
ご先祖様は、洞窟に荷物を運びこむと、空を見上げる。
ぽつぽつと、雨がふりだしていた。
雨は雷も伴って、一週間以上降り続いた。
時々、様子を見に行った動物たちは、まるで状況が分かっているかのように、大人しくしていた。
こんなに降られては、私の住んでいた場所も畑も、確かに山崩れにでもあっているだろう。
ご先祖様は、のんきに寝ているレモンをみて、急に気づいた。
この、役にたたない迷惑な人は、神の使いなんだろうと
レモンは、予言し出した。
明日、明後日、のことだけではなく、一年後、十年後、百年後でさえもあった。
その度に、ご先祖様は行動をすると、見る見る間に、富はきずかれ、貴族のくらいまでもらえるくらいになった。
「家名は、パウンドにしたよ。お前が、はじめて食べたお菓子の名前だ」
その頃には、店もすでに立ち上げられ、何人もの従業員が住み込みで働き、二人暮らしではなくなっていた。
貴族になり、王都の娘とも結婚し、そうして、パウンド家は興されたのだ。
ご先祖様は、余裕ができると、自分の家より先に、お菓子の店を作っていた。
商会の仕事も忙しかったが、必ず週に一度は、そこで菓子を焼き、神子にふるまったという。
私の祖母は、神子に会ったことがあるそうで、私はよく、その時の話をねだった。
「お菓子のお店には、神子様とおじいさま専用のお部屋があるの。部屋には大きな窓があってね。表からは見えないテラスにその窓を開けて出て、そこでお茶会をすることもあったわ」
懐かしそうに祖母は話す。
「一緒にいる姿は、祖父と孫のようで、会った時から姿は変わっていないとおじいさまも、言ってらしたわ。時々、おじいさまの代わりに、お菓子を作ってあげていたの。流行りのお菓子や、氷菓子や、ゼリーを作ってみせたら、それはもう喜んでいて、かわいらしかったわ」
祖母は嬉しそうに言う。
「お茶会の時は、必ず、基本のパウンドケーキ出すって決まりがあったのよ」
そうして、ご先祖様が、亡くなると神子さまもいなくなった。
その予言書も、私の代には、もう役割を終えていた。
いつまでも予言に頼ってはいけないと、分かっていたのか、ご先祖様は、広い土地を買い、畑を作り、牧場を作り、地に足をつけて働くよう残した。
ふと思う。
それは、家の為だけだったろうか。
今は、使われていない、お菓子の店を思い浮かべる。
小川が流れ、そこから見渡せる山まで買い取った、あの場所を。




