11 シルヴァンがやったこと
出発の朝、シルヴァンは、ボーガンと人知れず話していた。
おきまりの挨拶や、たわいのないここで食べた食事のことなどはなしていたが、少し沈黙が落ちた後、シルヴァンは、決心したように、肩にかけたカバンから、一冊の本を取り出す。
「迷惑になるかもしれませんが、これをシュガー先生に渡してもらえないでしょうか?」
その本は日焼けやシミが目立っていてお世辞にも、きれいとは言えなかった。
しかし、緑色の同系色のグラデーションで刺繍をほどかされた表紙は、静かな落ち着きをあたえている。
「薬草百花 シルヴィーナ・サスノウ」
ボーガンは、丁寧にその本を受け取り、誰に聞かせるでもなく、表紙を読みあげた。
「私は、シルヴァン・フォーレース。フォーレース家の長男です。これは…私の母、シルヴィーナが、母国で書いたものです。こちらでは、あまり知られていない薬草がのっているので、先生の暇つぶしにでもなれば」
「ほほほ。私の兄は、本馬鹿でも、ありますからね。それは喜ぶでしょうが…大事な物なんじゃありませんか?」
シルヴァンは、頭をよこにふる。
「先生に持っていてもらいたいんです」
今までにない必死さを感じ、ボーガンは少しとまどう。
静かな青年だと思っていたのに、隠された感情が見えた気がした。
家名に少し引っ掛かりを覚えたが、シルヴァンの、すがるような目を見て、言いかけた言葉は飲み込む。
「ええ、分かりました。必ず、兄に渡しますよ」
そう言って、ボーガンはポーチに本を入れる。
シルヴァンは、安心したように笑う。
首元には、ドリスと同じペンダントが光っていた。
自分の乗る馬車へと歩く、ボーガンの後ろ姿を見て、自分もいこうかと、シルヴァンは、歩き出す。
やり残したことは、なかったかなと考える。
ひとつひとつ思い出し、確認していく。
大丈夫そうだ。
もう、心配することは何もない。
シルヴァンは、荷物が増えた馬車に乗る。
不審に思われないように、荷車を最初の状態に戻すようにルートに言っておいたのだ。
少し、不服をそうっだったけれど、ちゃんと言われた通りにしたようだ。
久しぶりに置いてある、木箱に座ろうとする。
今日一日は、この固さをがまんしなければなと、思ったが…。そこには、想像した固さはなく、戸惑い、また、座りなおす。
木箱の感触とは想像できない、弾力が感じられる。
シルヴァンは、反射的に外を見ると、思った通りルートがこちらを、うかがうようにみている。
まったく、注意したというのに、とシルヴァンは思い、緩みそうになる頬をごまかすように、首をふるのだった。




