6 新しい乗車人
俺たちが、待っているとドリスは、小太りの男を背中に乗せて戻ってきた。
血の匂いに気づいたのか、馬は落ち着かなげに首をふる。
「この先で盗賊に襲われていた馬車がありました。この方が荷主だったようで」
そういって、小太りの男を丁寧に下ろすが、小太りの男は腰が抜けているようで、地面に正座するように座った。
シルヴァン様は、その男の前に行き話を聞く。
「ボーガン・パウンドと申します。王都で店をださせていただいております、パウンド商会の次男でございます。この先の村へ商いに行こうとしていたところを襲われてしまったんですが……いゃぁ、私にも何がなんやら、理解できていないんですがね…」
ボーガンは、話しだした。
「襲ってきた盗賊は、荷物と、私の命での担保で、いったんは護衛達を逃がすことに同意したんですが、最初から、そんな気はなかったようで…護衛達が馬車に乗って反撃できなくなると、火を放とうとしたんです。そうしましたら、なぜか身内同士の殺し合いが始まり、あっという間に盗賊達は、みな死に、私だけが生き残りました」
荒唐無稽のような話をシルヴァン様は、最後まで聞くと、ドリスに視線を送る。
ドリスがその視線にうなずくのをみると、
「それは、大変でしたね。私たちは、王都へ行く途中なのです。よろしかったら一緒にいきますか?」
「それは、ありがたいことです。こちらからお願いしようと思っていました」
そう言って、ボーガンは、なんとか立ち上がった。
俺は、また御者台に座っている。
が、しかし、俺たちの馬車ではないし、隣に座っているのは姉ちゃんじゃなく、ボーガンさんだ。
姉ちゃんだけが、今、元々の馬車を走らせている。
隣に、ドリスを乗せてっ!
「いやー。人がいっぱい増えてしまって、すみませんねぇ」
「……いや、別に」
と、俺は前を走る馬車から目をそらさずに言う。
幌を張っているせいで、もちろん御者台は見えないが、ギフトの力を使えば、なんかなるんじゃないだろうか。
俺は、いらいらと考えていた。
ボーガンさんは、最初の血の気の引いた顔とは、全く違い、にこにこと笑っていた。髭に覆われていない、少し見えるふくらんだほっぺが、てかてかと眩しいくらいで、こっちを見ているのが横目で見えた。
そう、同行者が増えたのだ、しかも大勢。
今、俺たちは、あの場所から去っていったはずの馬車2台と一緒に走っていた。
なぜ、こうなった……。
あの後、襲撃のあった場所が王都への通り道となっている為、やむおえず向かうと、すでに何人かの護衛達が戻っていて
「ボーガン様ぁー」
と、野太い声が、次々と聞こえていた。
逃げていっていた馬も、その声につられたのか、戻ってきているようで周りをうろうろしている。
護衛達は、転がっている死体の中を探すように散らばっていたが、俺たちの馬車が見えると、一斉に寄ってきて、すでにその時、護衛達が自分を呼ぶ声に気づいていた、ボーガンさんは、馬車が止まるのを待つことなく、荷台から降り、皆のもとへ走ったのだった。
むさくるしさを感じる、再会を果たすと、道の真ん中に自分たちが降ろしたままの荷物が目に入り、どうしようとなる。
そこで、俺たちの馬車に積んでもらえないかと、相談してきたのだ。
一台にはすでに、負傷者をのせ帰り道を進んでいて、その一台分の荷物が積めない。
お金は支払うので、という言葉をきいた時、姉ちゃんと俺は、目くばせし合い、俺たちが、ドリスにうなずくと、ドリスはシルヴァン様としばし話し合い、荷物の半分を引き受けることにした。
けれど条件を出した。
俺たちの馬車に積む作業をするのは、俺たちだけ。
他の人たちは、入らないようにと。
それを聞いたボーガンさんは、それに疑問も感じることもなく、みんなと喜んだ。
そうして、早速、姉ちゃんと、ドリスは馬車に荷物を載せた。
小声でシルヴァン様に、この荷物も収納した方がいいでしょうか?と尋ねると、何がきっかけで、俺の収納カバンが露呈するか分からないので、このままにしよう。と言われた。
でも、すいぶんとぎゅうぎゅうになったなぁと思っていたら、いつの間にやら、ドリスは、御者席に乗ることなり、俺ははじき飛ばされるように、ボーガンさんの隣におさまった。
そりゃぁ、シルヴァン様の安全のためだと言われれば、抵抗できない。
まさか、俺が、常に結界のような空間でこの馬車を守っているから、大丈夫だとも言えないし…。
人と関わるってめんどくさい。
負傷者をのせた馬車とは、すぐに追いついた。
ボーガンさんは、取り上げられていた荷物からポーションを取り出すと、三人の負傷者たちに飲ませた。
「傷が治ったからと言って、体内が良くなったというわけでもないんだから」と言って、負傷した護衛達を動かせることなく、そのまま馬車で休ませる。
その馬車を一番前にして、真ん中は姉ちゃん達の馬車、一番後ろの馬車に、俺とボーガンさんが座っている。
負傷しなかった護衛達が、3頭の馬にそれぞれ乗って警戒していた。
ボーガンさんは、慣れたように手綱をにぎり、俺に話しかける。
「いやぁ、しかし良かったですよ。皆さんのような方が通りかかってくれて。一時はもう終わりかと思いました」
「みんな、無事でうれしい?」
「えぇ、そりゃぁ、もちろんですよぉ、あんまりお金はない我が家ですが、みんなよく仕えてくれていて、兄よりも、長い時間すごしている者もいるくらいですよー」
俺は、ますます頬の肉を光らせているボーガンさんを見た。
「そうだっ」
ボーガンさんはそう言うと、自分が持っているポーチから、白い巾着袋を取り出し俺に渡す。
「私、甘いものがすきでしてねぇ、これ、自分で作ったんですがね、いかがですか?」
俺は、それを受け取ると、口をそっと開けた。
中には、色とりどりのキャンディが、白粉をまぶされ、ころころと、たくさん入っている。
「わぁー!」
俺は、おもわず感嘆の声をあげると
「どうぞ、試してください」
俺は、おそるおそる、赤いキャンディを指でつまむ。
「これ、いただきます」
「えぇ、それは、リンゴ味ですよ。喉につまらせないように、気を付けてくださいね」
俺は、それを、口に入れる。
「!!!」
びっくりした。
俺だって、何回かはキャンディをなめたことはある。
けれど、ちがう、このキャンディは、ちやんとリンゴの味はするし、それにそれに!!
「どうですー。おいしいでしょう。その粉がまた、おいしさの秘密なんですよー」
ボーガンさんは、あまりの美味しさに感嘆するしかない俺に、話続ける。
「ぜひ、その袋ごと、もらってくださいね。なんせ、私には売るほどあるんですから」
そう言って笑う。
俺は、さっきまでの不機嫌さを忘れ、ご機嫌になった。




