4 シルヴァンは心をおちつかせたかった
(シルヴァン視点)
「あっ!」
ルートは、何かをひらめいたかのように、勢いよく立ちあがると、リタに、興奮したように話しだす。
「シルヴァン様も、喜んでもらえるとおもうんだよね」
とってつけたように、そう言うと、姉を連れて、去っていく。
本人は、急いでいるつもりなんだろうが、足場の悪い場所だ、肩を左右上下に動かしながら進んでいる姿は、細い姿も相まって、今にも倒れそうだ。
私も、そっと本を閉じて、立ち上がった。
心を落ち着けるために、薬草探しをしていたが、ここで終わりにしよう。
仲の良い、姉弟だと思う。依存しているのではないかと思うほどの。
きっと通常だったら、そこが一番気になるところなんだろう。
王都に行くにあたって、雇うものにまず望むのは敵ではないことだった。
その点、あの姉弟は心配なかった。
ただの宿屋で、日当で雇われているのは宿屋の主人からの話からもわかった。
次に、王都へ行くための足が用意できるかどうか、護衛はドリスにまかせるとしても、御者も兼ねると目が行き届かないこともあるだろうし、長旅には馬車も欲しかった。
馬はないとはいえ、そこは、借り馬があることだしと、良しとした。
帰りの馬車は必要ないから。
それにしても、あの時は驚いた。
急に、リタは私の泊っていた部屋のドアを叩き
「今すぐ、出発の用意をしてください」
私は、もちろん理由を聞こうとしたけれど、準備が終わってから全て話すと言い、勝手にドリスが借りている隣の部屋へ入ると、瞬く間に荷物をまとめ、それを持ち階下へおり、再び戻ってき、あっけにとられているわたしに容赦なく、荷物をまとめさせるのだった。
小言を言いそうになる口は、リタの必死な顔と、よく見れば汚れている服に、閉じられた。
何か、あったのだろうと見当はついた。
そして、それは、よくないことだとも。
階下に降り、裏口に行くと、そこにはドリスの武器や、カバンが積んであった。
一足先に降りたリタは、外にいるようで私は、深くフードをかぶりなおす。
ちょうどその時、リタは、ドアから戻ってきた。
「馬車が用意できました」
リタは、安心したようにいう。
そうして、私は、鹿毛の馬がつないでいる、幌がかぶった馬車を見る。
馬の世話をかいがいしくする、リタの邪魔をしないように見る馬は、賢そうな目で私を見つめた。
はて、この馬の前髪は流行っているのだろうか、ぱつんと一直線に切られた前髪を見て思う。
そして、私たちの荷物の他、木箱ひとつしかのっていない荷台に乗り、なんとなくその木箱の上に腰をおろす。
いくばくもしないで、ルートが戻り、その後、すぐにドリスが戻ってき、私の向かいに座らせられる。
いつの間にか宿屋に注文してあったであろう、食事の包みを、リタは受け取ると、姉弟は、宿屋の主人たちと少しの別れの挨拶をして、馬車は進みだし、帆の後ろの布は下ろされたのだ。
街からでると、ドリスは、馬車の横を歩く方が気が楽だと、荷台の方へは、仮眠をとる時などしか乗らないし、魔法の基準があまり分かっていないから、気にしていないようだが…。
姉弟には、別れる前までに言った方がいいんだと思う。
一応は、他に人がいないことを確認して使っているようだけど。
危うさを感じる。
木箱ひとつと、わたし達の荷物しかなかった荷台が今は、分厚い絨毯は敷かれ、木箱の代わりに、柔らかい座面にシルクを張ったスツールと、人ひとりがゆったりと寝れるくらいの長椅子が置かれてインテリアを気にするかのように色違いのクッションが二つあった。
ドリスの武器と、私の本以外は全て収納したそうだ。
寝る時は、私に軽い布団をだし、ドリスとリタ用に、警戒する時間に使う長椅子をそれぞれ、馬車のそばに置くのだ。
姉弟で使っているテントからは、どう考えてもそこには入りきらないだろうという、ベンチがでてくる。
あの姉弟は、それが収納カバンの利用方法だと、仕事だと思っているようだが……。
あくまで、収納カバンからでてくるのが普通で、なんの関係もないテントから、出てくるのは普通ではない。
私は、離れていった二人の姿を目で追う。
ルートは、ドリスとリタがまた稽古をはじめるのを、不機嫌さを表すよう唇をとがらせながら見ている。
そうだ、この子はまだ12歳だ。
分かっていないのだろう。
私は、閉じた本に目を落とす。
道中、何度も読み返していた本を思い出す。
振動がなく、水面を浮くように進む馬車の異常さに私は、気づかないふりで、明日も馬車に乗る。




