1 目でみえるのはかたちなのか
そこは、ふわふわと、やわらかい霞がただよう場所だった。
優しい採色にあふれ、どこを見渡しても同じように見え、どこを見渡しても全く別のものしか見えないようなそんな場所を、流れるように進む、ひとつの大きな光があった。
その光が裾を払うように動けば、小さな光は散らばり、止まればその動きでまた光はきらきらと落ちてゆくのだった。
『あら、きれいだこと』
光は、進んだ先に咲いていた花に手をのばすように近づいた。
普段だったら、花の朝露にさわればまた、光となり散らばっていくのだけれど、
その露は、固まったかのように動かない。
『馴染んだ方が楽だというのに』
光はあたりを見渡した、すると今でぼんやりとしていた景色は、一気に鮮明にかたち造られる。
水は流れ始め、小川は作られ、地平線を割るように青い空と草原が造られ、遠くには雪山の山脈まで見えるようになった。
光も周りに合わせるかのように姿を作り、もう一度、花に手をやった。
『折ってしまえば廻から外れてしまうのよ』
ふと、まわりを見ると他の花も、かたくなに固まっているように見えた。
どうして、この場所ばかり、そう思い、その花達の根元を見ると、花弁のような亀裂があいていた。
『ここから見ていたいものがあったのね』
花たちは、さわさわと震えた。
『見たって、つらいんじゃないくて?』
花は、落ち込んだように動きを止めた。
『忘れられないのね』
花は、光が折るよりも早く、しなびてしまいそうになった。
『あわてんぼうさんねぇ』
光は、花の時を止めた。
『母様』
光は、涼やかな声が聞こえて、その方を見る。
それは、いつか光の眦をはらったときに生まれた、光の一部であり、子でもあった。
せわしげに周りを飛ぶ子は話し出す。
『私はそこに行ってみたく思います』
光は考えた、形あるものから離れ、その残りを消え去るために、この場所があるというのに、下を見る隙間に気づかずにいてしまった。
これがなかったら、これたちも今頃、安穏になっていたであろうに。
私の非であろうか。
ちらと、隙間をのぞく。
『人の一生は、ここでの瞬きのようなもの。私の子がいくそうよ。あぁ、ちょうど、まだ光をもっていない子がいるわね』
また花はさわさわと震えた。
その周りを、たくされた光は言い聞かすように飛び回る。
『もう手放せそうかしら?』
花は静かになり、光は、一輪の花の止めていた時を解く。
その花は、それ以上しおれることなく、隣の花に寄り添うように曲がるのだった。
『行ってまいります』
と声が聞こえ、振り向くともう、その子はいなくなっていた。
光は、花たちにふれる手を止め、代わりに、なでるように亀裂を直し、線のような傷すら見えなくなった時、ふと考えた。
でも、あのこ、下の世界の理を知っているのかしら。
光は、再び歩きはじめる。
木漏れ日のような葉をはらい、粒子のような光をふらせ、進んでゆく
一歩一歩進んでいくと同時に、鮮明に見えていた景色も、またにじむようにぼやけ、淡い色の霞が漂う世界に戻ってゆく
そういえば、前にも、下界に行った子達がいたような。
あの子たちは、もどってきてたかしら。
少しの疑問が浮かんだが、進むにつれて、それも薄れ、
そして消えてゆくのだった




