12 いっしょならそれでいい
「王都にいくわよ」
姉ちゃんは、言った。
すっきりとした空を背に俺を見て、少しのびた前髪が風でゆらぐ。
起きたばかりの俺は、頭が回らないながらも考える。
王都?
なんでだろう。
でもと、すぐに思う。
姉ちゃんが、自分でなにかやりたいだなんて言ったことがあったけ?と。
ずっと、自分の事は後回し、生活の為だけに働いていた姉ちゃん。
「うん、行こう!僕、どこへでも行くよ」
俺は、すぐに寝床から立ち上がり、姉ちゃんへ近づく。
姉ちゃんが、嬉しそうに笑うから、俺もつい楽しくなって、姉ちゃんに勢いよく抱きつく。
行こう、どこへでも。
頭の中で少し考える。
俺のギフトなら、姉ちゃんを守ることも、仕事を手伝うことも、出来る。
姉ちゃんと、一緒なら、どこへ行っても平気だ。
姉ちゃんがいる場所が、俺の居場所
俺は、くるくると俺の体をまわす姉ちゃんと笑いあったのだ。
朝食のピークを過ぎた食堂にいたドリス達が、昨日の雨で王都への出発を出発を遅らせると聞いた俺が
「俺も、姉ちゃんと、王都に行くんだ!」
と話してしまう。
ちょうど近くにいた姉ちゃんにドリスは話しかける。
「姉弟、2人で危険じゃないのですか?」
姉ちゃんは、テーブルを拭いていた手を止め答える。
「私は、力のギフトを持っていますので、多少は大丈夫です。王都までの依頼でもあれば、そこに入ろうかと…。」
ドリスは黙り込む。
「雇ってもらうのは難しいんじゃないかな?」
チラッと俺をみてドリスは言う。
「戦闘で、雇ってもらおうとはしていません」
そこで、はっとしたように、姉ちゃんは言う。
「もしかして、王都までの移動を募集していませんでしたか?」
ドリスはパチパチと目を瞬かせると、シルヴァン様に目線をやる。
「そうだね、私たちは、確かに依頼しているよ」
姉ちゃんは、俺と目を合わせ、そして、2人でうなずく。
俺は、周りに誰もいないのを確認すると、ドリスの耳に口を寄せて
「俺たち、馬車と収納袋を持っているんだ。雇ってもらえないかな?」
「……」
俺の目を、まじまじと見つめるドリスに負けないように俺も見つめ返す。
「馬はもっていないから、借りないといけないけれど。収納袋は馬車ごとだって収納できるんだ」
あと、一歩だと思い、言葉を重ねる。
ドリスは、シルヴァン様に、同じように小声で伝える。
俺と姉ちゃんは、収納を売りに雇ってもらおうと考えた。荷車はもともと馬車を少し改造して使っていたにすぎなく、取り外した部品も、幌布もとってあるから、ちょっと手を入れれば元通りにできる。
姉ちゃんは力強といえども、格闘技をならったこともないし、しかも俺のようなおまけ付だ。
けれど、俺が収納のギフトを使えるのが知られるのは危険だろうと。
だから収納袋を持っているということで誤魔化そうとした。
収納袋自体は、すごく貴重だけれど、大商人といわれる人たちは必ず持っているといわれていて、この世に存在していないわけじゃない。
けれど、珍しいことは珍しいので、人を選んで話すことに決めていた。
そして、容量は馬車一台ということにした。
それ以上だと、他の大商人達より上をいってしまうらしい。
シルヴァン様は、少し考え。
「御者はできるのかな?」
と聞いた。
「で、出来ます」
姉ちゃんが、そう答えると。
「では、依頼をするよ」
そう言って、雇ってくれることになった。
俺たちは、朝の手伝いを終えると(泊めてもらったお礼だから無給だ)
まず、馬車の点検と、ついでに部品をもう一度つけてもらう為、近くの馬具屋に行く。
その後は、ギルドへ行って、依頼成立の報告、それが終わったら、出発の為にいろいろな買い物をする予定だ。
荷車の上にもともと置いてあったかのように、部品をこそっとだしておく。
姉ちゃんがいつも通り牽こうとしたんだけれど、すぐにドリスが引き継いだ。
姉ちゃんは恐縮していたけれど、ドリスは
「なんの重さもかんじませんよ」と言って姉ちゃんを恐縮させていた。
俺たちは3人で動いていた。
「状態がいいから、昼過ぎには終わるよっ」
と、手も足も太くて頼りがいがありそうな馬具屋さんから、心強い言葉をもらい、次にギルドへ行き依頼成立の報告と、ついでに俺の冒険者登録もしておく。
受付してくれたお姉さんに、微笑ましく見られ、そわそわする。
もらった登録用紙に緊張しながら書いていると、最後の欄にギフトを記入する項目があり、とまどいペンをとめる。
それに気づいたお姉さんに、記しても記さなくてどちらでもいいわよ。と言われ、載せないことにした。
なんのギフトを持っているか、言わない人の方が多いらしく。また、聞くことも良くない事とされているそうだ。
そもそも俺は教会で選別の儀をしていないから、どう書けばいいかも分からないし。
登録が終わりると、姉ちゃんも持っている親指位の銀のプレートのついたネックレスを早速、首にかける。これには証明もついているらしい。
少し大人になった気分だ。
そのままの気分で、ギルドのお姉さんから教えてもらったお店に行く。
冒険者用の商品を、ギルドと提携して、そろえているお店があり、そこは、いい状態の中古品も数多く売っているという。
買うものは、色々、姉ちゃんと相談してた。
そもそも俺が、家の物すべて収納しているのだ。
けれど、なので、小さなテントをひとつ、マント二人分と、動きやすい服、必要最小限の旅の荷物を買うことに決めた。
偽造する収納袋は、もともとあった、ななめがけのカバンにすることにした。
姉ちゃんは、ぴたりとしたズボンと少し厚手のベストを買う。
よくある量産型の茶色のマントは、二人共にちょうどいいサイズがあって、またこれも、おそろいでよい。
旅にはブーツの方がいいだろうと、それも買う。
二人で並んだら、そっくりな格好になった。
いい、とても、いい。
荷物は最初、ドリスが全部持ってくれたようとしたけれど、これくらいはと、姉ちゃんは衣類や小物を、マントの布で一つに包んで持ち、ドリスは手にはテントを、肩には、それ以外の物を買ったばかりのものを、店の人が一つにまとめてくれ、それを肩に担ぎ、持ってた。
俺は、マントもブーツもつけたまま帰ることにした。
途中、姉ちゃんとは別行動になった。
ドリスが武器を修理の為、預けてあった店へ行くと言い、俺はドリスについていった。
そして、たいした時間がかかることもなく、店をでると
「ルート」
と呼ばれ、振り向く。
「ひゃぁ―」
俺は、悲鳴ともなんともいえない声を出す。
その隣でドリスは、落ち着いた声で言う。
「髪を、切ったんですか。似合ってますね」
姉ちゃんは、ドリスに正面から褒められ、はにかんだ。
くぅー、ドリスに先を越されてしまった。
弟、失格じゃないか。
「ねえちゃん、かわいいよ長くても短くてもどっちでもかわいいけど」
急いで、自分の感想を言う。
姉ちゃんは、背中まであった髪を耳の下で切り、すっきりとした襟足になっていた。
俺は、少し浮かれていたんだと思う。
旅の保存食を買う為、ドリスと姉ちゃんが、出店の乾物屋であれこれ見ている間、少しヒマになり、店先から少し離れ、空気をはらんでは膨らむマントがおもしろく、体をくるくると動かしていた。
店でみている間、姉ちゃんの荷物は俺が預かっている。
ブーツは少し大きいけれど、姉ちゃんが綿を詰めてくれるっていう。
姉ちゃんと見る新しい景色はどんなものが、あるんだろうか。
お金も、たくさん稼いで、今日のように、いろいろなものを買ったり、気軽に出店で食べ物を買ってみたい。
俺は、楽しいのに落ち着かないそんな気持ちでマントを揺らしていた。
「おっと」
けれど、体力不足がでてしまったのか、少しよろけてしまい、たたらをふむ。けれど、預かった荷物だけは、落とすまいと、腕に力を入れる。
なんとか、転ぶことを耐えた俺が、ほっとした時だった。
がんっ
体から最初、そんな音が出たのかと思った。
しかし、地面に体をたたきつけられた音だと、すぐに気づく。
倒れたまま、視界いっぱいにひろがる茶色の地面の上に、買ったばかりの物が散らばっているのを見た。
あぁ、姉ちゃんが迷って迷って買った服たちが、昨日の雨でまだぬれている地面に落ちている。
俺は、急いで、散らばったものを拾い集めようとした。
立ち上がろうと、手に力を入れる。少し、肩が痛いような気がするけれど、そんな事なんて後回しだ。
一番近くに落ちているズボンに手をのばした時、俺は、背中から、また蹴られて吹っ飛んだ。
俺は、さっきも今も、誰かにつきとばされたのだ。
頭でやっと理解する。
怒りが俺の体を埋め尽くし、俺を蹴ったであろう人間に立ち向かった。
「なにするんだよ!」
俺の視線の先には、薄い黄色の髪をおかっぱにした若い男が、にやにや笑いながら立っていた。
「お前が、俺の歩く前をふさいできたんだろ。俺はその邪魔をどかしただけだ」
「じゃまなんて、なにもしてないだろっ」
祭りでいつもより人も多く出ている通りで、人だかりがすぐにできた。
おかっぱ頭の後ろには、同じようににやにや笑っている集団がいた。
その集団の一人が一歩出てくると、
「この街の領主、ターナーン家跡取りビチル様だぞ、お前が今、歩けている道は全て領主様が許可を出し通らせてやってるだけ、貧民風情が口ごたえするな」
この街の領主の息子…貴族か。
俺は分がわるいのを、悔しいながらも感じる。
その男は、ついでのように、落ちている服をわざわざ踏みつけた。
俺はかろうじて手に持ったままのマントを、ぎゅっと握り締める。
貴族にとって、庶民を殺すことはたいした罪にはならない。
貴族にとっての大罪は、王に逆らうこと、その重さによって罪が決まってくるのみ。
正確にいえば、王のものである民を勝手に殺すのは罪とできるんだろうけれど。
王が、民一人、しかも貧民を貴族が殺したとて、いちいち咎めない。
俺は、姉ちゃんが騒ぎに気づいてこっちにこようとしているのに気づいた。
だめだ、今きたら姉ちゃんも目を付けられる。
俺は、目線だけで姉ちゃんの足と口に鎖を付けるように魔法を展開した。
姉ちゃんは、動かない自分の体に気づくと、逃れようと頭をふり、切ったばかりの髪は姉ちゃんの荒れた心を映しているかのように暴れまわった。
俺は、姉ちゃんから目線を外すと、ビチルに向き直る。
「すみませんでした」
頭を下げた。
地面にはまだ、ちらばっている物たちが目にはいる。
「頭がまだ、高いんじゃないかぁ」
「ビチル様に直接、声をかけるなんて、なってないなぁ」
取り巻きがはやしたてる。
「………」
ビチルは無言だ。
俺は、膝をつき額を地面につける。
こんなもので、はやくこの時間が過ぎるのならたいしたことじゃない。
「すみませんでした」
そう言った俺の丸まった背中に、また衝撃が襲い、地面に転ぶ。
チビルが蹴ったのだ。
「あーあ。靴が汚れてしまったなぁ」
と、周りに同意してもらうかのように言う。
俺は、倒れたまま動かない。
そしてもう一度、ビチルが足を振り上げた時
がっしりとした手が、その体をかばうように包み込んだ。
「謝ってます。ここくらいで、いいんじゃないでしょうか」
ドリスは、頭を下げるようにうつむく。フードは少しずれていて、みっしりと詰まった灰色の毛が見えている。
おもむろに、ビチルは近づいてくると
「へー、お前、獣人なの?」
ドリスのフードを乱暴に取り、楽し気に残酷そうに笑うのだった。




