11 姉はかんたんなことだと思った
「いろいろなことがあった」
つい声にだしてしまって、ハッとなり、隣にいるルートが、そのまま寝ているのを確認した。
よかった。まだ、眠っている。
私は、そっと起き、窓辺にむかう。
鎧戸を内側へ開き、そして雨戸を外側へひらいた。
きしんだ音がしたけれど…。
大丈夫、まだルートは眠っている。
外は、昨日と違って、かすんだ雲すらない空が、静かに広がり、透明な青い光が辺りをつつんでいる。
もうすぐ、日は、はっきりと姿を現し、今日は、いい天気になるだろう。
湿度を少し含んだ風が、頬をなでるように通り過ぎる。
昨日は、いろいろなことが、あった。
もう一度、繰り返す。
でも、と思う。
昨日だけじゃなかった。
今まで、ずっと、いろいろなことがあったじゃないの、と問い変えした。
お父様と、お母様が亡くなってしまってから、私は、深く考えることをやめた。
考えて、考えて助けを求めたとしても、何も変わらないことを知ってしまったから。
当たり前に、成長し、結婚をし、続いていくと思っていたものは、ただの思い込みにすぎく、一点の曇りなくそう信じてた自分が、かえって間違っていたのだ。
なにも、なくなった私は、今日、住むところ、今日のご飯のことしか考えられなく、明日のことなんて考えられなかった。
時には、恥ずかしさで顔をあげることができないこともあった。
そんな時には思い出す。私の手をつかむ、小さな弟。
弟が立派に育ったら。
私が生きていることは、価値があるんじゃないかと。
頭を下げ、嘲笑されたことも価値があるんじゃないかと。
弟の為ではないと分かっていた。
自分が生きる意味に価値が欲しかった。それを弟に求めただけ。
生きていて間違ってないんだって…。
井戸から水を汲む音が聞こえる。
そろそろ、動き出さなければ。
髪をなでつけながら結ぶ。今日の仕事をヤーマンさんに頼まれてはないけれど、朝の手伝いくらいはするべきだろう。
私は、借りた寝間着を脱いで、服を身につけながら考える。
ルートは、大きすぎる力を与えられたんだろう。
家の家具すべてを収納してみせたギフトに危うさを感じる。
あれは誰かに知られたら、危険だ。
私の力じゃ、守れない。
ずっと秘密にしておくべきか…。
あんなのは、物語のなかでしか聞いたことがないわ。
どうしたら、いいんだろう。
まだ12歳の世間を知らない子ども…。
その年齢だったら、まだ学校に通っていてもおかしくない…。
学校…
ごそごそと乾いた音がして、振り返った。
「おはよぅ」
「おはよう」
目がしっかり開いていないルートに私も挨拶をかえす。
まだ丸い頬をもつ、かわいい弟。
「髪が爆発してるわ」
私は、小さく笑う。
布団の上に、身を起こしたルート。
昨日、水浸しの、何もなくなった家で、帰ろうと言われた時、思わず考えてしまった。
帰るって、どこへ?
お父様と、お母様と住んでいた家は、とうになくなっている。
ちぐはぐな修繕をくりかえし、大事に守っていた家は、吹き荒ぶ雨風が容赦なく入ってくる。
私は、どこへ帰ればいいんだろう。
いつの間にかルートは、隣に来て私を離すまいというように、服を強くつかんでいる。
どこにも、いかないようにと。
余りにも強く掴むから、私の姿勢は斜めにならざるおえなかった…。
それは、以前、ルートが迷子になって無事見つかった後の姿を思い出させ
「ふふ」
つい思い出し笑いをしてしまい、誤魔化すように窓から外を見た。
でも、とあの時のルートに思う。
もう、大丈夫。
もう、あなたは、成長した。
私の横に引き留めておく理由はもう何もない。
そして、それは、私も同じだろう。
「ルート」
私は、振り返って伝える。
「旅に出よう」
「たび?」
私は、軽くうなずく。
「まずは、王都へ行くわよ」
突拍子もない姉の発言だというのに、しばし、首をかしげ考えると、ルートは勢いよく言う。
「うん、行こう!僕、どこへでも行くよ」
そう、わくわくした顔で言うから、私も、心が踊ってきて、勢いよく抱きついてきたルートの体を抱きしめると、ぐるぐると回ったのだった。




