圧倒的不敬
「良い雰囲気も何もねーよ。普通に挨拶してただけだろ」
呆れているグレイに、院長がグイグイ詰め寄ってきてた。自然と私とグレイの間が開く。
「あんなに見つめ合って微笑んでたのに!?」
「普通に会話してただけだろ! 一々細かい事で突っかかってくんな!」
また喧嘩してる……。
スノウが呆れた顔で見ているから、この二人はいつも通りなんだろうな。
変わってなくて何よりと言うべきか、スノウと一緒に呆れるべきか。
迷っていたらスノウがにっこりと私に笑顔を向けた。
「さ、お父様に挨拶しましょう」
スノウは華麗なスルースキルを見せて喧嘩する二人の間をすり抜ける。
喧嘩している二人の影になって見えなかったが、スノウが前に出てくれたおかげで部屋の奥にクロッカス殿下が座っているのが見えた。
クロッカス殿下は部下二人の喧嘩を困ったような、微笑ましそうな顔で見ていたが、私とスノウを見るといつもの穏やかな笑みを向けてくれる。
ウィスタリアを解放するときにグレイが殿下の髪を切ったので、今のクロッカス殿下の髪は昔のような長髪ではない。髪型はハーフアップにしていて涼し気だ。
「久しぶりだな、サクラ。いや、初めましてというべきか?」
クロッカス殿下が声をかけてくれた時点でふと気が付いた。
私は今、ノーメイクである。
ついでに髪はボサボサ。
入院中はお風呂も決まった日にしか入れなかった。ちなみに昨日も今日も入っていない。足がつかえないので介助がいるからである。
必然的にメイクが面倒くさくなった。家族に化粧品を持ってくるよう頼むのも申し訳ないし。
更に入院中だったので部屋着というより病衣である。
圧倒的不敬。
ついでにいうと王族のスノウに抱えられているのも不敬である。
スノウとは一心同体だったから、何の疑問も抱かなかったけどダメだろう。
そのことに気づくと同時に、こんな顔面偏差値の高い中に放り込まれてノーメイクでケロっとしてた自分にビビる。
慣れって怖い。
後、王族相手に礼も取れない。あっちからすれば初対面だってのに。
クロッカス殿下は気にした風もなく笑っているけど、私は申し訳なさで吐きそうになった。
「……お久し振りです、クロッカス殿下。このような姿で申し訳ありません。ですが怪我のせいで歩くのも大変でして……このような姿でお目通りしたのを許していただきたく……」
なんとか絞り出した声で『初対面じゃないから許してくれないかな?』という懇願である。
クロッカス殿下はやや同情するような顔で頷いた。
「準備も何もなく急にこちらに戻ってきて、サクラも驚いただろう。アンバーが勝手をしてすまないな。……だがオレも助けてもらった礼を言えなかったからな。もう一度逢えて嬉しいぞ」
「お姉さまが気にすることではありませんわ。私もお父様もお姉さまに逢いたかったんですもの」
なんて良い人達なんだ。
助かって本当に良かった。




